思い出のファイル

□一日遅れのクリスマス
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「(確かにナルには少し耐えられないかもね)リンさんも外にでますか?」

「私は……いえ、遠慮しておきます。残っている仕事を部屋で片づけておきます」

断ったリンに残念そうな顔をした琴音はコートを着るとドアノブに手を掛けた。

「プレゼント、ありがとうございました。大事にさせてもらいます。それと、外は寒いですから程々にしてくださいね……琴音」

「!リンさん……。こっちこそ受け取ってくれてありがとうございます!!」

ほんの少しだけ微笑み、『鈴宮』ではなく『琴音』と名前で呼んでくれたことが嬉しくて嬉しくてたまらず、琴音は満面の笑みで頷いた。








◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








「うっわ、さむ……。しかも雪まで降ってるし」

外に出た途端冷気が襲い、ぶるりと琴音は身を震わせた。

「ナールー、雪降ってるから中に入ろーよー」

闇の中に一人ポツンと佇むナルに声をかけても反応なし。無視かコンニャローと琴音は頬を引きつらせながらナルの隣に並んだ。

「(やっぱり都会は星が見えないなぁー)ナル、寒くないの?」

「別に。琴音は…寒そうだが?」

「んー?平気平気ー。寒いのには慣れてるしー」

そう言えば、ナルが溜め息をつきながら自分の手を差し出してきた。それにキョトンとしてナルを見上げればさらに溜め息をついた。

「お前は昨日言ったことも忘れたのか?」

「いいの?」

そう尋ねれば、逆にナルから手を握られた。

「昨日も思ったけどさ、ナルの手ってあったかいよね」

「琴音の手が冷たすぎるんだ」

ぎゅっと握る力が強まって、琴音は「そうかもね」と苦笑して視線を夜空に向けた。
さぁっと冷たい夜風が吹き抜け、二人の髪を揺らした。真っ白い雪が視界にちらつく。

「琴音」

「なぁに?ナル」

呼ばれてナルの方を向けば、ナルの瞳が一瞬揺らいだ。そして何故か手を引かれてナルの方に一歩近づいた。

「どうしたの?」

「いや…なんでもない」

そう言って視線を逸らすナル。だが握られる手は強まった。

「………琴音、手を出せ」

ナルがコートのポケットに手を入れ、包みを取り出した。
それは言われた通りに手を出した琴音の手の平に乗せられた。

「これ、なに?」

尋ねてもナルは何も答えない。無言なのは開けても構わないのだろうかと解釈し、ナルの手から片手をスルリと抜いて包装紙をはがす。

中にあったのはヘアピンだった。色はシルバーで、先の方に碧色の石で作られた小さな花がついたものだった。

「キレイ……。これ、私に?」

見惚れていた琴音がナルを見ると、ナルはふいと横を向いた。
その耳がわずかに赤いのは寒さからだけではないだろう。

「何で私なんかに?」

誰にも何もあげていないナルが何故自分にだけこんなものを贈るのだろうと首を傾げていると、ナルは顔を背けたまま「たまたまだ」と言った。

「偶然通りかかった店にあって、目に入って……それで……」

小さく何か言ったようだが生憎琴音には聞こえず、ナルはそれ以上何も言わなくなった。

「嬉しい……。ありがとう、ナル。大事にするね」

少し回り込んでナルの正面に立ち、その手を握ると琴音は嬉しそうにふわりと微笑んだ。

それを見たナルも表情を和らげ、微かだが笑った。
そして手を伸ばして琴音の髪に触れ、優しく撫でる。

「ん………」

気持ち良さそうに目を閉じた琴音が「もっと撫でて」というようにナルの手に頭を擦り寄せた。
それは甘えてくる猫のようで、ナルは思わず笑った。そしてその手はやがて頬へと滑る。

琴音が目を開ければ、少し近い距離に自分を見つめるナルの漆黒の瞳があった。

「ナル?」

名前を呼べば、ナルははっとしたように離れた。

「っ……。大分冷え込んできたな。向こうも終わったころだろうから戻るぞ」

「うんっ」

琴音に包まれた手を握り返してナルは歩き出した。その後を機嫌のいい琴音が続いていく。

カラン、というベルの音が静かな夜に響いて消えた。








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