思い出のファイル
□出会いA
6ページ/13ページ
翌日、琴音はさっそく昨日源蔵に渡された書物を読むことにした。
それはこの村に伝わる言い伝えを記したものだった。
「うっ………た、達筆すぎたり崩しすぎたりして読めない………」
表紙を開いた途端飛び込んできた、墨で書かれた達筆な文字に琴音は思わず呻いた。
安倍流陰陽術のことが書かれた書物は秀一が書き写したもので、字は少々汚いがきちんとした現代日本語だった。
渋い顔をして唸る琴音に苦笑した水姫が代わりに読むことになった。
《……要約するとこうですね。昔々、この村は陰の気で満ちており、陰陽の均衡が崩れておりました。それゆえ数多の妖怪を呼び寄せてしまい、村人は次々と喰われてしまいました。
そこに南を司る四神・朱雀がお出ましになられ、妖怪達を炎で滅し、この地を浄化し、村の陰陽の均衡をもとにおもどしになりました。
そして朱雀は自分の眷属でありその半身とも呼ばれる聖鳥・朱鳥にこの地を御護りになるように命じ、その場を去っていきました。
それ以来村人達は朱鳥を村の守り神として祀ったそうでございます》
「ふーん、そうだったんだ。あ!だからあちこちに鳥の置物があるの?」
琴音の問いに水姫は頷き、琴音は納得したように頷いた。少し前進できたようだ。
「よしっ!今日は図書館にいこう。村のことと朱鳥のこともっと詳しく知りたいし」
決まったら即行動!な琴音はそう言って立ち上がり、源蔵の家から飛び出していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
図書館の窓際、日当たりのいい場所で調べ物をしていた琴音は一段落ついたのか、大きく伸びをして欠伸をした。
「やっぱり昔の話だし、言い伝えだから資料っていえるようなものはあんまりなかったなぁ〜」
ルーズリーフ1枚分しかない情報に琴音はシャーペンをくるくると回しながら難しい表情をした。
窓から吹き込む風にパラパラと本のページがめくられていく。
「森を燃やす朱い鳥……今回の原因はやっぱり朱鳥なのかな?でも何か腑に落ちないというか何と言うか………」
第一、この村の守り神である朱鳥がなぜ村人を傷つけて森を燃やすのか?そこが理解できず、琴音はうーんと首を傾げた。
《村人達が朱鳥を祀るのを怠ったのでは?祀られなくなった神は悪質なものに変貌したり、祟り神にもなったりしますから》
神への信仰心が薄れつつあるこのご時世だ。昔の言い伝えだし、高齢の人達ならまだしも、若い人達は知らないかもしれない。
「神の怒り…かな?」
コロコロ…と手から滑ったシャーペンが机の上から落ちる。屈んで拾っていると、窓の外から話し声が聞こえた。
「…聞いたか?何でも源蔵爺さんの依頼を受けた名のある陰陽師がこの頃起こってる怪事件を解決してくれるそうだぞ」
「聞いた聞いた。今ちょうど現況である妖怪を退治しに森にいったらしいぞ」
「いや〜、よかったよかった。これで村も平和になる」
安心したように笑う村人の声を聞いて琴音は嫌な予感がした。胸の奥がひどくざわつく。
「まさか、朱鳥を祓うつもりじゃ………」
《もし知らずに守り神に手を出せばとんでもないことになりますよ》
琴音が立ち上がると同時に走ってきた村人が焦ったように声を上げた。
「たっ、大変だ!森が…森がすごい勢いで燃えてる!朱くて大きな鳥が森を燃やしてるんだ!!」
「「「《 !? 》」」」
それを聞いた途端琴音は窓から飛び出し、驚く村人3人を余所に駆け出した。
「まずいことになったね。……何か怒りに触れたんだ、あの陰陽師」
《なんと愚かなことを……》
罵詈雑言(バリゾウゴン)を吐き捨てながら琴音は急いで森へ向かった。
.