思い出のファイル
□出会いA
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数時間後、病院に入院してる怪我人に話を聞き終えた琴音はロビーの一角に突っ伏していた。
「う〜〜ん……聞いた通り、やっぱり妖怪の仕業なのはわかったけど………」
話を聞く限り、村人達に怪我を負わせたのは“鎌鼬”のようだった。
すっぱりと切れた傷口といい、村人達が聞いた“風を切るような鋭い音”から琴音はそう判断した。
「でもなぁ……怪我人のことは鎌鼬で推測できたとしても、もう一つの火事…炎を纏った朱い鳥の正体がわからない」
鎌鼬だけでなく、もう一匹いるのだろう。炎を扱う妖怪……
「火…鳥…朱色……そんな妖怪いたかなぁ?こんなことなら妖怪図鑑とか山海経とか持ってくればよかったかな?」
何分急に決まったから、呪符とか数珠とかしか持ってきていないのだ。
《主》
「あ、白夜おかえり。そっちはどう?なんかわかった?」
《少しは。どうやらこの村は何かに護られていたらしい。力の残滓が所々に残っていた》
白夜が言うには、被害が出た場所には何かの力の残滓が残っていたということだった。
妖気ともまた違う力はどちらかと言えば神気に近く、またその気に似たものが村を護るように囲んでいたという。
《だが村を囲んでいる気は大分弱い。その気が弱まって村に妖怪が増えたんじゃないかと俺は思うが》
白夜の推察に琴音はフムと唸る。
「ならその力を強めればいいのかな?でも誰がこの村を護ってるのかわからないし………」
《村に奉られている祭神ではないと思います。それ程強い神ではありませんゆえ》
人々の信仰と共に力をつけた神様だと水姫は言った。
「ならいったい、誰が………」
謎はますます深まるばかりだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そうか、この村を守護の力が護っていたが、今は薄れてしまっていると……」
「そうみたいなんです。でもここの神様じゃないらしくて。朱い鳥のこともまだ詳しくわかってないし……」
夕方、今日の報告にきた琴音は溜め息をついていた。
「いやはや、こうも違いがでるとはのぅ」
顎髭を撫でる源蔵に琴音は首を傾げた。
「満作の方は『芦屋流陰陽師であるこの私が妖怪など全て滅してみせましょう!!』と自信満々に息巻いておったがのぉ」
はてさてどうなったことやら、と源蔵は面白がるように笑っていた。
「(なんだろう……源蔵さんって依頼主、だよね?何でこんなに楽しそうにしてんだろ………)」
昨日はどうか助けてくだされ〜とか言ってたのに…アレ?あれぇぇ?
「あの、源蔵さん……」
琴音が口を開いた時、源蔵は一冊の古い書物を手渡した。
「それはこの村に代々伝わる書です。役に立つかはわかりませぬが、どうぞ」
「ありがとうございます……」
受け取った琴音に源蔵は微笑み、「では部屋でゆっくり休みなされ。ワシももう寝ますので」と部屋から去っていった。
「(……何だろう。すごく自然且つ上手い具合に話を逸らされて流された気がする………)明日も頑張ろ……」
胸中でいろいろ思う所があったが、琴音は疲れたようにただ一言だけ呟いて部屋にいって寝たのだった。
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