思い出のファイル

□出会いA
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源蔵に詳しく聞いた所、騒ぎが起きたのは今年の春先辺りだという。

最初は森に行った住民が何かで切られたような怪我をし、体調不良を訴えて数名が病院に駆け込んできた。
それから森で小火(ボヤ)が続き、森に住む動物の数が減った。

「それからも森に入った者が被害に遭うため、森に入ることを禁じた。そしたら今度は行方不明者が出始めたのだ」

父親が仕事から帰ってこない。子供が遊びに出たまま帰ってこない。等と言う報告を受けた住民は手分けして探した。

だが、見つけることはできなかったという。それどころか探しにいった者までもが行方がわからなくなってしまった。

「そして夏に入った頃、事件は深刻な問題になってきてな。怪我人、行方不明者共々数が増え、小火から本格的な火事にまで発展した」

そしてある日、住民が見たのだ。





──森を焼く、朱く大きな翼を広げた鳥の姿を──





「朱い鳥………」

「ああ。それでこの事件が妖怪の仕業じゃないかと思い、霊能者や陰陽師を呼んだ。中には見える者がいて、『これは妖怪の仕業だ。しかし数が多過ぎて我々では対処できない』と」

それで陰陽師の代名詞とまで言われる二大流派である安倍流陰陽術と芦屋流陰陽術の陰陽師に依頼した。

「事件の概要はわかりました。妖怪退治もそうですが、事件の真実も確かめたいので住民や被害者の方に聞き込みをしたり、独自で調査しても構いませんか?」

「構わない。ワシも何故こんなことが起こったのか知りたいしな。お嬢さんの好きにしたらいい」

許可をもらえた琴音は頭を下げてお礼を言った。

「……ここは小さな小さな村だ。農業や山の恵で成り立っているような村だ。そんな村でも大切な大切な村だ。そしてこの村に住んでいる住民も。……どうか、どうかこの村を救ってくだされ」

膝をつき、土下座をするように深く頭を下げた源蔵は琴音に嘆願した。

「確約はできかねます。だけど私は陰陽師。私にできることをします」

簡単に「できる」などとは言わない。琴音は「精一杯努力をする」という形で依頼を引き受けた。





外に出て険しい顔で空を見上げた琴音を水姫が静かに見上げた。

《どうなされますか?》

「先ずは被害者の人達に聞きに行く。そのあとは町の人達にも。今日は情報収集だけにしよう」

どんな妖怪なのか知らない状態で妖怪退治するのは危険だ。
冷静に判断した琴音は町にある病院に向かうことにした。








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