思い出のファイル

□出会いA
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そしてやって来た村の名前は『赤楽(セキラク)町』。依頼主に会いに行けば、そこにはもう一人男がいた。

「柊源蔵さんはいらっしゃいますか?」

「それはワシじゃが……いったい何の用かな?お嬢さん」

白髪が混じった初老の老人は矍鑠(カクシャク)としており、老いを感じさせない人物だった。
源蔵は部外者である琴音を見定めるようにして鋭く睨み、どこか警戒しているようだった。

「私は今回の依頼を受けた柊秀一の代理人です」

「代理人だと?こんな小娘にか?今の村の状況を解決するために安倍流陰陽術の陰陽師で最も強い柊秀一が来ると聞いたのに。柊秀一を出せ」

「その秀一さんから『お前が適任だからお前が行ってこい』と言われましたので。申し遅れましたが、私の名前は鈴宮琴音です」

明らかに琴音を見下した様子の男に琴音は淡々と答えた。

「ふん。安倍を名乗らぬ陰陽師などその辺にいる三流と同じだろう。そんな輩に妖怪退治など務まるか」

憎々しげに吐き捨てた男は足音荒く部屋から出ていった。

《なんなのです、あの男。主にあのような無礼な言い方をして》

《まったくだ。どうやら陰陽師のようだったが……》

どうやら2人は男の態度が気に入らなかったようだ。まあ、琴音主義の2人から見れば琴音を侮辱したのだ、当然と言えば当然だろう。

「あの男はお嬢さんと同じように依頼を受けた者で芦屋満作(アシヤマンサク)と言う。
安倍流陰陽術と引けを取らぬ芦屋流陰陽術の陰陽師だ。この2つの流派は昔から仲がよくないのだよ。あまり気にすることはない。
お嬢さんが年端もいかぬ少女だとしても、秀坊が寄越したのだから相当に強い陰陽師のようだ。信用しても大丈夫そうだ」

秀一を知っているらしい(というよりも秀坊の方が気になる)源蔵はそう言うと琴音の頭を撫でた。少々乱雑だったが、どうやら琴音のことは信用したらしい。

ちなみに芦屋流陰陽術とは安倍流陰陽術の祖である安倍晴明と好敵手(ライバル)だったと言われる芦屋道満を祖とする陰陽術だ。

祖先が仲がよくなかったためか、安倍流陰陽術と芦屋流陰陽術の扱う陰陽師は仲が悪い。
己こそ正統な流派で強い陰陽師だと思い、互いを敵視して術比べと称して式同士を戦わせたり呪詛をかけ合ったりするのは日常茶飯事らしい。

(これはなかなか大変そうな依頼になるな……)

そう思った琴音は思わず溜め息をつきそうになった。

「依頼内容の説明とこの村の現状をお話しくださいますか?」








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