思い出のファイル
□出会いA
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「……妖怪退治?」
「そう。今日依頼があってな。面倒だから琴音、お前が行ってこい」
帰った途端、保護者であり養父である柊秀一から言われた言葉に琴音はしばし固まった。
「面倒って………。依頼引き受けたのは父さんじゃない!!なんで私に振るの?面倒なら引き受けなければよかったのに………」
「うっせぇな。断れるならとっくに断ってるよ。だが、断りにくい相手でな……。こればっかりは仕方がねぇ。
それに依頼内容を見てみたら俺よりお前の方が適任と見た」
苦虫を噛み潰したような顔で言った秀一はふんっとそっぽを向いた。
どうやらかなり苦手としている人のようだ。
《主が適任とはどういう意味だ?面倒臭いから押し付けた、とかじゃないだろうな?》
険しい顔で秀一に問い質すのは白夜。
「そんなんじゃねぇよ。よくわからねぇんだ。妖怪の仕業に思えるがどんな奴かわからねぇし、そのくせ事態は深刻だ。俺じゃ手に余るんでな。だから、お前」
ビシッと指で刺され、琴音の頬は引き攣った。だがそれに構わずに秀一は尚も続ける。
「お前は俺より霊力が高い。使役してるやつだって龍神に天狐。お前以上の術者はそうそういない。琴音ならやれる」
琴音はぐうの音もでない。秀一の言葉は事実でありひがみや嫌味は一切ない。
「安心しろ。呪具作ってやるし、なんだったら堅巌(ケイガン)を貸してやってもいい」
堅巌とは秀一の式で、岩を背負った大亀だ。防御や結界に優れており、堅巌が織り成す結界はそうそう破られない。
「はぁ………。わかったよ。行きますよ、行けばいいんでしょう。
じゃあ縛魔と封印の呪具をお願いします。堅巌もついてきてくれる?」
《某(ソレガシ)は構いませぬ。お嬢を必ずやお守りいたしましょう》
堅巌の式符から直接頭に響くように声がし、琴音は「ありがとう」と返した。
「んじゃ決まりだな。呪具は用意すっから、明日にでもここに行け」
立ち上がった秀一が渡した紙には依頼人の名前と住所、そして依頼内容が書かれていた。
「……火を纏いし朱き鳥が森を燃やしている……?さらに重傷の村人や行方不明の村人続出、ねぇ……?」
呟いて、琴音は何か不思議な感じがした。何か予感めいたものが琴音にはあった。
そして「私はここに行かなければならない」と思った。それは直感と言えるもので、なぜそう思うのかは琴音にもわからなかった。
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