思い出のファイル
□エイプリルフール
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「……よし、大丈夫。きっと大丈夫。練習はしたし……うん」
部屋の中で何故か意気込む琴音は深呼吸をして部屋から出た。
「父さん、玲治さん、おはよう」
「はよ。ふわぁー」
『おはよう、琴音ちゃん』
リビングで眠そうに欠伸をしながら新聞を読んでいる柊秀一。
片や皿を浮かせて棚に戻している霊の松本玲治。
『そうだ琴音ちゃん、昨日水姫さんがつくった苺のタルトケーキがあるんだけど、食べる?』
玲治が尋ねれば、琴音は俯いて首を振った。
「……いらない」
「『 !? 』」
ガタン、と秀一は椅子から立ち上がり、玲治は浮かせていた皿を落とした。二人の顔は驚愕に染まっている。
「い、いいい今、なんつった?」
「いらない。……食べたくない」
『琴音ちゃん?どこか具合が悪いんですか?』
秀一は信じられないとわなわなと震えており、玲治は心配した表情を浮かべた。
「熱はねぇな。腹でも壊したか?」
「どこも悪くないってば!とにかく私、今甘いものとかお菓子とか食べたくないの。……嫌いになった」
「『 !? 』」
本日二度目の衝撃が二人を襲った。
「琴音が……甘いもんを嫌いになった…だと」
『なんてことでしょう………』
そんな二人を見て、琴音は笑いを堪えていた。
「天変地異の前触れか?こりゃ絶対良くないことが起きる」
『ええ…私もそう思います。1にお菓子2に睡眠、34が皆でいること5に皆の幸せを願う…な琴音ちゃんが、1のお菓子を嫌いになるなんて』
「(私ってそう思われてたんだ……。なんか複雑)私、何か匂いだけでダメかも」
じゃあ私バイトに行くね。と琴音は手を振ってリビングから出ていく。
そして出ていく間際、ドアから顔だけを出してにこりと微笑むと、
「今日は4月1日、エイプリルフールだよ〜。だからタルトは残しといてね!帰ったら食べるから!」
そう言うとバタンとドアが閉まり、琴音は家から出ていった。
一方、残された二人は……
「4月1日……そうか、今日はエイプリルフールか……」
『嘘……だったんですか……。そうですよね、琴音ちゃんが甘いものを嫌いになるわけないですよね』
何故か安心する二人だった。
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