思い出のファイル
□お菓子はいかが?
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いつものように、SPRのオフィスでのんびりと(仕事を)している琴音は持ってきたクッキーを頬張った。
今日はナッツ入りのチョコクッキーだ。サックリとした触感と甘いチョコの味に頬が緩む。
そして自分で入れた紅茶を飲みつつ、仕事として渡された本を眺める。
琴音は日本語で書かれた本の英訳を頼まれているのだ。
クッキーをかじりつつページをめくっていると、ガチャっと音がして所長室のドアが開いて中からナルが出てきた。
琴音は慌ててクッキーをしまい、ゴクンと飲み込む。
「ナル、どうしたの?英訳はまだ終わってないよ?」
いつものように変わらない笑みでナルを見る。
しかしナルは琴音を見た後溜め息をついた。
「……琴音。いつも言っているが、仕事中にお菓子を食べるな」
「 !? な、なんでわかったの?」
目を丸くさせてナルを見れば、ナルはまた溜め息をついて琴音を指差す。
「…口の横、ついてるぞ」
はっとして手を当てれば、確かにザラッとした感触がした。
しまった、と顔に出る琴音にナルは一言「資料にくずが落ちたらどうする」と呟いてソファーに座る。
「ごめんなさい。……ナル、紅茶飲む?」
眉を下げて尋ねれば、ナルは小さく頷いてファイルを読みはじめる。
私は席を立って紅茶を入れるべく給湯室へと消えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おまちどーさん。麻衣みたく美味しくないかもだけど」
カチャリ、と小さく音を立ててナルの前にカップを置き、自分のカップにも継ぎ足す。
白い湯気がほんのりと立ち上る。
ナルはファイルを閉じるとカップを手に取り一口飲む。
「……まあ、悪くない」
可も無く不可も無く、というナルの評価に琴音は苦笑する。
これでも頑張ってるんだけどなぁ〜と内心呟き、自分も一口飲む。
麻衣にイロイロ教わって上達しているが、どうやらまだナルの合格点はもらえないらしい。
「クスッ。ならナルにも満足いくよう頑張らないと。ナルは紅茶にはうるさいからね〜」
クスクスと笑い、今度は堂々とクッキーを食べはじめる琴音。ナルはもう文句を言わなかった。
「よくそんなに甘い物をバクバク食えるな」
「普通だよ〜。ほんっとナルって甘い物嫌いだよね」
ちょっと不満そうにクッキーを食べ、ナルは静かに紅茶を飲む。
「甘い物、本当に駄目なの………?」
「駄目…というより苦手、だな。あんまり食べたいとは思わない」
つまり、甘い味が苦手らしい。なら、甘くないのなら大丈夫ということだろうか?
「ふ〜ん………」
どうしたらお菓子を食べてくれるだろう。と考えていると、紅茶の香りが鼻を霞めた。
「(そうだ!!これなら………!!)」
いい案を思いついた琴音は目を輝かせた。
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