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□眠れぬ夜に
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「いやぁ、あっ!」




自分の声で目を覚まし、辺りを見回す。
そこは何の変哲もない、いつもの私の部屋だった。


じとっ、とかいた汗が気持ち悪くて、タオルを取ろうとベッドを下りる。
もしかしたら、唸っていたかもしれない。



タオルを掴んで額や首筋の汗を拭き取り、使い終わったタオルを洗濯機の中に入れる。
中には既に、お気に入りのシャツや靴下、更には赤いシミのついたTシャツまで、見境なく詰め込んであった。


限界まで入ってあるのを見て、洗剤を適当に入れ、フタを閉じてスイッチを押す。
さて、朝までには洗濯終わってるかな、なんて呑気なことを考えながら、今度はソファーに座った。



テーブルの上にある水差しを手に取り、逆さにして置いていたグラスに水を注ぐ。

ごくり、

喉を潤した水はそこに放置していたせいで、温くなっていた。
それでも乾いていた喉を潤すのには十分で、同時に口の中のネバネバとした気持ち悪さも水と一緒に飲み込む。



ことん、と音をたててテーブルにグラスを置き、ソファーから立ち上がる。
ベッドに戻って布団を頭から被り、寝ようと瞼を閉じた。


再び広がるのは、闇色の世界。
その端に、チラリと何かが映った。



ぱちっ



眼を開けて、布団を剥がして枕とついでにお気に入りの兎のぬいぐるみを持って、ベッドから下りる。












******


「で、何故俺の部屋に来た」




不機嫌を隠すことなく、ソファーに座って私を見下ろすボスに、顔を伏せる。ちなみに、私は床に正座している。
ボスの向かいのソファーに座ろうとしたら、クッションを投げられた。ふわふわで抱き心地ちのよいクッションで、私がいつも(勝手に)使っているやつだ。


だけど、幾らふわふわでもボスが投げたら、それは凶器に早変わりだ。
顔面にぶつかったときドゴッなんて、クッションじゃない音がした。


確かに真夜中にボスの部屋に押し掛けて、怖い夢を見て寝れなくなったから一緒に寝て、なんて非常識極まりないが、凶器(クッション)を投げなくてもいいじゃないか。



頬を僅かに膨らませてボスを見上げる。
枕とぬいぐるみを抱く力を強めれば、ボスの片眉が上がった。




「……だって、ボスの部屋が一番近かったんだもん」


「帰れ」




またクッションが投げられた。
ぎゅっと眼を瞑って、直に訪れる衝撃を覚悟する。


ドガッ


クッションが直撃した、クッションならざぬあり得ない音。
次いで、顔面に走る激痛―――




「………?」




だが、いつまでも経っても衝撃はなかった。
恐る恐る眼を開くと、既に眼前にボスの姿はなかった。

辺りをキョロキョロ見回して、見つけた。
クッション"だった"ものを。



私の背後にある壁にぶつかったらしく、クッションの中の綿が外に出ていて、辺りに散乱している。
一体、どうやったらクッションをあんな風に出来るのかこちらが聞きたいくらいだ。


次いで、また視線を動かす。


見つけた。



ボスは私に背を向けて、ベッドに向かっていた。
着ていたシャツを脱ぎ、床に落とす。
そのままの格好で、ベッドに潜り込んだ。




「ボス………?」


「………」




返事はない。どうやら、本気で私をここで寝かせてくれる気はないようだ。
溜め息をついて、枕とぬいぐるみを握り直し扉に向かう。

次はスクアーロ辺りでも当たってみるかな。




「何処に行く気だ」



ヒュッ…――


ガコンッ…――



「ッ!?」




今度は枕が投げられ、私の顔の真横を通り過ぎた枕は壁に直撃し、破裂した。
なるほど、クッションの綿が外に出ていたトリックはこれか。



背後を振り返れば、ベッドの上で上半身を起こしているボスの姿があった。
距離が遠くてどんな表情をしているのかは解らないが、間違いなく喜んでいるような顔ではないだろう。



私がきょとんとそこに立ち尽くしていたら、ボスがまた枕を握った。
そんなボスに、慌てて手を横に振る。




「す、スクアーロのとこですっ!」


「……」




ボスの枕を握る力が強くなった。
すぐにでも投げられる体勢になったボスに、その場にしゃがみこむ。




「うあー!!ごめんなさいぃ!」


「るせぇ、ドカスが。静かにしやがれ」


「は……はい」




口を手で覆って、ボスを見上げる。
またベッドに潜り込んだボスは、完全に寝る姿勢だ。

何をすればいいのか解らなくてそこに立ち尽くしていたら、ボスの視線が私を捉えた。
その視線に、肩がビクンと跳ねた。




「な……、何?」


「…………寝ねぇのか?」


「いや、寝るけど」


「じゃあ、さっさと寝ろ」


「はあ……、だから誰かの部屋に泊めてもらいにいこうと……」


「かっ消されたいのかドカスが」


「いいいいい、いやですぅ!!」




慌てて立ち上がって、さっきより勢いよく手を振る。


いや、マジでやめてほしい。かっ消されるなんて冗談じゃない。




「えと……、私はどうすればいいの?」


「………」




もぞもぞ。横にずれたボスを、首を傾げながら見つめる。
ボスが動いたせいで、ひとり分のスペースがあいた。


ボスが何をしたいのか解らなくて、きょとんとしていたら、またボスの視線が私に向いた。




「寝ねぇのか?」


「……寝て、いいの?」


「好きにしろ」




ぶっきらぼうに返ってきた答えに笑みをこぼしながら、ベッドに近付く。
あいたスペースに身を埋めてボスの背にピタッとくっつけば、私に顔を向けた。




「くっつくな。せめぇ」


「へへっ、ボスあったかーい」


「おい、聞いてんのかドカス。こっち来んな」


「聞こえないもーん」


「ガキみてぇなこと言ってんじゃねぇぞ」




はあ、と溜め息をこぼしたボスに、諦めて大人しくなってくれたかな、なんて思って、ボスの顔を窺おうと視線を上げたら、吐息が掛かる程の距離にボスの顔があった。




「なっ」


「勝手に離れんじゃねぇよ」




急にボスの顔が目の前にあって、思わず後ずさろうとしたら、私の腰をボスが掴み、ボスから離れることを許さない。




「どうした?顔が赤いぞ」


「ッ!?」




耳許で囁いたボスに、顔が熱くなるのが自分でも解った。
耳に掛かる息に羞恥から顔をボスの胸に顔を埋める。




「ボ……、ボスなんかっ、大ッ嫌いだぁ!」


「あ゛ぁ?ふざけたことを言うのはこの口か?」


「いひゃいいひゃい!ふぉっへひっひゃらないへ!」


「正直に言ったら、放してやる」


「う゛ー」




ニヤリと笑ったボスに、眉尻を下げる。
覚悟を決めてぎゅっと眼を瞑った瞬間、ボスの手が私の口から離れた。




「嫌いじゃないもん……。す…、好きだもん!」


「よく言えたな」




その言葉と同時に、唇に温かくて柔らかいものが当たった。
一瞬その意味が解らなくて固まったが、ボスのしてやったりという顔に、さっきの行為が何なのか気づき、顔を真っ赤にする。




「なっ……ボ、ボス…。今……、キ、キス……」


「何だ、文句あんのか」




心外だな、とでも言いたげなボスに、ぶんぶんと首を横に振る。




「………ない」


「ふっ。まぁ、当然だな」




その言葉の直後、再び私の唇に温かいものが重なった。





眠れぬ夜に





(で、どんな夢見たんだ)
(ボスがトマトになっちゃう夢……)
(かっ消すぞ)
(ほ、本当だって!)





――――――――――
うわぁ、ザンザス様難しい!てか、最早これはザンザス様じゃない!
ごめんなさい、ザンザス様ぁ!
まぁとにかく、庵さま、相互ありがとうございました!!
 

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