短編小説

□きっと最初で最後の
1ページ/8ページ

パー子が家に遊びに来た。家も近いし、ここにははじめもいるから来やすいんだろう。最初来た時はヤス達に睨まれてたけど、何度も顔を合わせるうちに打ち解けてきたみたいで、最近ではパー子が家の前を通っただけで「上がってけ」と半ば無理やり家に入れる事もある。こんなに組員達がパー子に優しいのは、きっとはじめに最初に「んな睨んでやるな」って言われたからだろう。


「ちーっす神崎先輩!!二葉ちんも!!久しぶりッスね」
「はっ、どこがだパー子。学校でも会ってっし、毎週毎週俺ん家勝手に上がり込んでんだろーが」
「言われてみれば確かに!!」
「「パッパラパーのパー子」」
「二人とも酷いッス!!」


ぎゃんぎゃん文句を言うパー子を弄りながら、はじめ達は部屋に行ってしまった。ここ最近いつもそうだ。はじめがパー子ばかりに構っているのが気に入らない。大体二人だけで一体何をしているのだ。気になってはじめの部屋に向かおうとすると、誰かに着ているパーカーのフードを掴まれた。何だ、と振り向いてみるとそこにはヤスがいた。


「何するんだ!!離せ、ヤス!!」
「そりゃ無理ですぜお嬢。若の所へ行くつもりでしょう?邪魔してやっちゃあいけやせんね。馬に蹴られても良いんで?」
「何を邪魔するんだ!?」
「そりゃあ俺の口からは」


ニヤニヤと笑うヤスにムカついて、無理やり手を振り払ってついでにドロップキックをかましてやった。ぐはっ、とか変な奇声を発して尻餅をついた隙に、はじめの部屋に向かって走った。お嬢のためでもあるんですぜー、とか意味の解らない台詞を背中に受ける。どういう意味だ?とか考えている間にはじめの部屋の前に着いた。


「〜〜〜スよ」
「あ?悪い〜〜〜」


そっと耳をドアに付けてみると、何やら話し声が聞こえる。何を話しているのだろうか。頭の何処かで危険信号が鳴り響いていたが、好奇心の方が勝った。少しだけドアを開け、中を覗いてみる。


「だ……めって言ってんスよ。組の人達に聞かれたらっ」
「大丈夫だ。人払いはしてある。……それとも、何だ?俺が嫌にでもなったか」
「そんなんじゃ……ないッスけど」
「なら良いだろ」
「待っ、んっ……」


中では、はじめがパー子を押し倒していた。はじめはニヤニヤと意地悪そうに笑っていて、パー子は顔を真っ赤にしていた。何コレ。何コレ。はじめが半ば無理やりパー子にキスをした。何、コレ。唇が離れる。


「ぷ、はっ……」
「まだ慣れないのかよ?可愛いな、お前」
「可愛いっ……」
「おぅ。超可愛い。好きだ、パー子」
「ウチも……神崎先輩の事大好きッス」
「ん……」


今度は、どちらともなくキスをした。はじめがパー子を抱き締める。何で。何で。何で、はじめは、パー子を抱き締めてるんだ?何で、パー子は、はじめとキスしてるんだ?パー子は、はじめの事が、好き?はじめも、パー子、が、好き?嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。嘘、だ。ゆっくりドアを閉め、自分の部屋へ向かった。






,
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ