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□小さい物語たち
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【生姜湯】





その日、絳攸は職場で倒れた。
気付いたら寝台だったのだ。
見慣れた天井、意識が朦朧としながらも自分の寝室だとわかった。


(頭が…くらくらする…)


起き上がろうとするが体に力が入らない。
喉が焼けるように痛み、横に置いてあった湯差しに手を伸ばそうとした最中、扉がゆっくりと開く。


「黎深…さま?」


いつも以上の不機嫌さに戸惑う。長年一緒にいたので養い親の微妙な変化ですぐにわかる。


「流行りの菌に感染するなど、自己管理くらいしておけ。一週間は隔離だ。」



「一週間、ですか?」



「あぁ、移る可能性もあるしな。そこで良いものを持ってきた。」


満面の笑みを浮かべ、懐から謎の粉を取り出す。


「兄上直伝、生姜湯だ。これを飲めばたちまち菌など吹っ飛ぶ。」


たちまちあの世行き決定の間違えではないのか…?
いつか秀麗が風邪を引いたときに見舞いに行った時のこと。その時に見た生姜のない生姜湯は今でも記憶の中で鮮明に物語っている。



「まさか、飲まないことはないだろう?兄上の思いを踏みにじるのか、絳攸。」


冷徹な微笑を浮かべるやいなや、湯差しに生姜湯を混ぜた。



「………。」


「………。」



無言の圧力。



「後で…いただきます。」


「後でだと?冷めるではないか、今飲め。」


「ぎぁー!!何するんですか!」








生まれて初めて三津の川を見た気がする。
その後、絳攸は三日間目を覚ますことはなかった。
絳攸曰わく、生姜の悪夢を見たとのこと。
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