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□涙の理由
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「あら、絳攸。どうしたの?」


百合は部屋に入ると寝台の上でちょこんと座る絳攸がいた。
いつのなら勉強か書物を読んでいる絳攸だが、今日は様子が変だ。


「百合さん……」


(なんか、すごい落ち込みようだわ…)


「僕、黎深さまに嫌われちゃいました…」


「え!?」


百合は驚きのあまり、すっとんきょうな声を上げてしまった。
そして頭の隅で冷静に考える。
いくら黎深だって、絳攸にひどいことをしたりさせたりしているが、嫌いになったりはしないだろう。むしろ絳攸が黎深を嫌いになっているほうに納得がいく。
黎深のことだ、また絳攸に誤解を受けるような行動、発言をしたのだと思う。
まったく、どうして素直になれないかな。


「絳攸、よく聞いて。黎深はね、世に言う「ツンデレ」っていう奴なんだよ。」


「つ、ツンデレ…?」


「そう、だから言葉と態度を反対にとってしまうときがあるの。その時は対抗するのもありだし、愛想をつかすって手もあるわ。」


「え、それって黎深さまと戦えと意味ですか?」という顔(百合の予想)をしている絳攸の頭を優しく撫でた。


「前にも言ったけど、黎深の言うことは真に受けないほうがいいわよ?そんなのを気にしていたら身がもたないわよ。」


「でも………黎深さま、僕のこと避けるんです…。」


黎深が人を嫌うときは実にわかりやすい。
相手をとことん追いつめ、自殺未遂を起こした人は数知れず。
例外はあったが、黎深に嫌われたら最後。
生きながら地獄をみるはめになるだろう……
避けるなんてそんな甘っちょろいことは絶対にありえない。


「私も黎深が考えていることはわからないわ。ただ、黎深は好きなものをはっきり言えない奴なのよ。だから結構誤解されがちだけど、本当は絳攸のことを大切に思っているはずよ。」


百合の言葉で、絳攸は少しやる気がでた。
そうだ、じっとしているより直接きいたほうがすっきりする気がする。
絳攸は静かに立ち上がると百合の前に立ち、真っ直ぐ見据えた。


「百合さん僕、あったって砕けてきます!!」


そういい残すと、走って黎深のもとへと向かっていった。
百合は笑顔で絳攸の後ろ姿を見送った。


(絳攸、いつの間にか成長しちゃって……。)
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