拍手文

□光の中で
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『人間的、あまりに人間的』
著:ニーチェ。ドイツの哲学者。
後世に影響を与えた思想家である。
巧みな散文的なアフォニズムを用いた文章力で人々を引きつけてきた。



(今日は、ニーチェ)





向かい側の席に座る彼は今日も読んでいた。




窓の外の光に照らされ、月を混ぜたような彼の銀色の髪がキラキラとしていた。
ふと上げた顔は中性的で、どこか冷たい印象を受ける。
現実離れした彼は人が少ない昼間の電車の中でも目立っていた。


最近彼は大学の帰りの電車で見かけるようになった。
あまりに電車と言う乗り物が不釣り合いで、まるで映画のワンシーンを見ているかのような錯覚に襲われる。
カタン、と揺れる車内の中。
不思議に思える距離感だった。
光の中で美しく描かれる風景は穏やかで、とても心地よかった。



大学前で駅の名前をアナウンスが連呼する。
慌てて目を開き、そして向かい側の席を見ると彼はいなかった。



ふと落ちている栞のようなものに気づく。
白い小さな花が押し花にされていた。





「すもも…」







まるで彼のように、光の中で輝いていた。








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