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□春の訪れ
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寒い冬の日のことだった。
辺りはもう薄暗く、雲行きが怪しくなってきた。絳攸は少し憂鬱な気分になっていた。この雲行きだともうすぐ雪が振りそうだからである…。
吏部へ行くところであった絳攸はふと足をとめ、外へ出たのであった。
息は白くなり手の先が赤くなっていた。
絳攸が雪が苦手なのは、過去の自分の記憶にあった。
寒空の下に、行く場所も無く長い長い時をただ過ぎるのを待っていた孤独感。
ただただ、ずっと降り積もる白い雪を眺めながらこのままいなくなるのかと思うと…
すると絳攸の視界に純白の白い雪が映った。
(とうとう降って来たか……)
空を見ながら、次々に落ちてくる雪を自分の記憶のようだと思った。
けして消えはしない記憶は、重く重く、そして冷たく…
「絳攸、また迷ったのかい?」
どこからともなく発せられた声は、絳攸を振り向かせたのだった。