拍手文

□その先に
1ページ/1ページ

転生パロ 番外編 クリスマスネタ






駅の改札を抜けると青いイルミネーションが冬の寒空の夜を照らしていた。
街の通りはすっかりクリスマス一色だった。
広場の中央にはクリスマスツリーがあり、待ち合わせの人達で賑わっている。




7限目が終わり、携帯を開くと一本の留守電が入っていた。
電子音の後に続く声は百合さんだった。
『あ、絳攸?今日私も黎深も仕事だけど、6時には帰る予定よ。それでお願いがあるんだけれど…、駅前のいつものケーキ買ってる店あるじゃない?学校帰りに買ってきて欲しくて。お金は後で渡すわ』

そうだ、クリスマス。
毎年この日は百合さんも黎深様も仕事を早く終わらせ、クリスマスは3人で過ごす、という決まりがあった。
小さい頃からあの小さいホールのケーキを3人で食べ、毎年百合さんが用意してくれるプレゼントを楽しみにしていた。
今もその習慣は変わっていない。

『わかりました』とメールを送り、生徒会室に向かい会長と楸瑛に断って出て来た。


『大丈夫、家族と過ごすんでしょ?うちの学校先生たちがほとんど生徒会に任せきってるから12月の終わりになっても仕事が減らないからね。しょうがないさ』


『お前は、大丈夫なのか?』


『ああ、私は一人暮らしだし平気だよ。多分来る人はいないと思うし。それに仕事するの嫌いじゃないしね。さ、頑張りますよ会長』


『むぅ…、今日はクリスマスだと言うのに楸瑛と二人きりか。寂しいやら、虚しいやら』


『何ですか、文句があるならうちの先生方の方に言って下さいよね。じゃあ絳攸、こっちは大丈夫だから早く家に帰って家族水入らずしてきなよ』



楸瑛と会長には気を使わせたかもしれない。
仕事、かなりの量残っていたな…。
そう思うとここでケーキを買っていることに対し申し訳なく思った。

店の前にはサンタの格好をした店員が路上販売をしていた。
小さなホールケーキを買うと、そのまままっすぐ紅家へ向かおうとする。

マフラーの隙間から刺すような冷たさが入り込み、体がぶるっと震える。
気づけば12月。
今年は一年があっという間だった。
生徒会に入ってからというもの楸瑛と会長と一緒に過ごした時間が一番長かった気がする。
前世に戻ったように、3人で過ごす時間は変わらない時だった。

出会った頃とまったく変わらず。
会長が連れて行ってくれたたこ焼き屋を思い出し、そういえばお金まだ返して貰っていない。
利子付きにしてやろうか、と心で呟く。
会長は、本当は秀麗の所に行きたかったのだろう。
それを言わず、楸瑛と一緒に早く行けと言ってくれた。


生徒会室で仕事をしている二人が脳裏によぎった。


歩く足を止める。
しばらくの沈黙の後、携帯を取り出す。



『すみません、百合さん…。今日どうしても用があって。本当に、すみません』



そして反対へと歩き出した。
再びダイアルを押し、数回のプッシュの後にいつもの声が出る。


駅へと向かう足取りは軽かった。
右手にはケーキと、たこ焼き。













(今からそっちへ行く。たこ焼き、買ってく…)


(気をつけて戻ってきなよ、絳攸。会長がケーキ食べたいって)


【その先に】


fin

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ