short
□涙の理由
1ページ/6ページ
(絳攸幼少期)
涙の理由
黎深様に拾われてはや数ヶ月…
最近気になることがある。
朝方、絳攸は眠気覚ましに庭院を散歩していた。
桜は満開に咲き乱れ、ひらひら絳攸のもとへ落ちてくる。
春の日差しが、緑がかった銀色の髪を照らし絳攸は眩しそうに目を細め呟いた。
「もう春なんだな……。」
庭院を進むと、紅家で一番大きい桜の木がたたずんでいた。
(あれ、誰かいる…)
紅色の着物に扇、すぐに黎深だと気づき絳攸は小走りで黎深の元へと駆け寄った。
「黎深さま、おはようございます…」
黎深は絳攸がくるとさらに不機嫌な様子になり、絳攸の顔をじっと見つめるのであった。
最近、自分がそばにいるとずっとこの調子だ。
なんだろう、この状況。
怖くて目が離せない…
「………。」
「………。」
「………。」
黎深はしばらくして無言でその場を立ち去っていった。
残された絳攸はかなりの落ち込みと悲しさで、下をうつむいた。
ここ最近会話をしてくれないのといい、今のこといい…
(僕、黎深さまに嫌われているんだ……)
花びらが風で悲しく散った。