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□君の隣に
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2月14日。
大学のキァンパスでは一段と賑わう日の一つである。
世の中が浮かれているかもしれない、と絳攸は密かに思うのであった。
今日は、というと自分はあまり良いという日ではない。
あの常春曰く、男にとっては楽しみな日であるという。
20年間生きてきて、そんなことを思ったことは一度もない。
「こーゆう」
渡り廊下を歩いていると、後ろから楸瑛が声をかけてきた。
まったくこの上なく不機嫌になる日だ。
楸瑛は紙袋を片手に、手を振る。
「そんな顔していると女の子が逃げていくよ、絳攸」
「結構だ、俺は大学に遊びに来ているわけではない」
「じゃあその数個のチョコはなんだい?」
「……、うるさい!」
ああ、本当に面倒だ。
恋だのチョコなど。
***
絳攸がこの日に不機嫌になるのは今に始まったことではない。
この日はチョコと共に、告白の回数も爆発的に伸びるためであった。
高校から一緒だった私は、この日になると絳攸の不機嫌を見ていた。
普段から、冷たい、冷静沈着、近寄りがたいなどのレッテルを張られている絳攸だがそこが良いという女性は多い。
しかも、顔良し、頭脳明晰の彼を女性が放っておくはずもない。
普段は近寄り難いが、バレンタインのこの日はチョコと共に絳攸に告白する数は爆発的だ。
そんなわけで、手に持てる最初の数個をもらった後は受け取らないらしい。
自分からしたらその容姿で女性とチョコを棒に振るなどと、まったく考えられないものだ。
「お前、今年チョコの数が少ないな。さてはお前の常春に気づいて激減したか」
「失礼だな、私の人気は未だ健全だよ。今年はね、本命チョコを貰ってないだけだよ」
「どういう心境の変化だ?」
「んー?別に変化なんてしてないよ。ただ、絳攸を見習わなきゃなーって思ってさ」
「は?何処が見習ってるんだ。見習うならたまには研究室にこい。この時期、教授が学会でいなくて忙しいんだ。手伝え」
「じゃあ紅茶でも入れますか」
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