story

□夕焼け、茜、涙色
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「…ごめんなさい…」

何度目になるか分からない言葉を、俺は崔護様に向かって言っていた。



夕焼け、茜、涙色



「謝んなくていいって。…だって、分かってて言ったんだから」

困ったように笑う崔護様に、何とも申し訳ない気持ちになってしまう。

『俺、渉のこと好きなんだ』

屋敷からの帰り道、並んで歩きながら崔護様に言われた言葉。

その言葉は、言われた俺にとって凄く嬉しかった。嬉しかったけど、でも…。

『……ごめんなさい……』

それが、俺の出した、答え。俺の生き方を変えてくれた、俺が一歩踏み出すキッカケになった崔護様からの気持ちは、凄く凄く嬉しい。

…だけど、俺は…

『まだ…まだ、忘れられないんです……』

まだ、あの人のことが好きだから……。

『ごめんなさい……』

だから、崔護様からの気持ちでも、受け取れなかった。

叶わない恋だと分かってる。あの人にその気がないだろうことも、あの人にとって、俺はただの親戚の子に過ぎないのだということも。

だけど、それでも…

『本当に…ごめんなさい……』

この気持ちを、恋を、今はまだ、諦めきることなんて出来やしないから。

…もしかしたら、崔護様の手を取って彼を愛してしまえば、こんなに苦しむことも無くなるのかもしれない。

だけど、そんなことのために崔護様を利用したくはないから。…いつかの崔護様のキズを、再び抉るなんてことはしたくないから…。

「…でもさ、渉」

夕焼けの茜色を背に浴びながら、風に浚われる金糸を淡い光に煌めかせながら、崔護様は俺に言った。

「いつか…いつか、渉が公ちゃんへの想いをふりきれたら…その時はまた、好きって言ってもいいか…?」
「崔護様……」

言われた言葉に、涙がじわりと滲んでくる。そんな日、ずっと来ないかもしれないのに。それなのに、崔護様はまた、俺に告白するのだという。

「あと、これだけは覚えといてほしい。渉がどう思おうと、俺は、お前が好きなんだってこと」

それは、残酷なまでに直向きで、真っ直ぐな想い。そんな想いを聞かされる日が来るなんて、思ってもいなかった。

「言いたいのは、とりあえず、そんな感じ。じゃあ、また明日な!」

俺の手に小さいタオルを置いて、タンッと踵を返したかと思えば、崔護様はあっという間に夕暮れの中に消えていった。

残された俺は、崔護様の残したタオルを顔に押し当てて、ただただ、声を殺して泣いていた──……。



今はまだ、あの人が忘れられないけど、

でもいつか、きっと、貴方への答えを出すから。

だからそれまで、

俺が、あの人への想いを振り切れるまで

貴方は、待っていて、くれますか…?



[END]



「私、まだあの人のこと…。」というお題で書いたもの。cigaretteの前の話。以下、補足説明というなの言い訳です←

崔護と渉は同じ学校の生徒であり、とある人物の御屋敷でバイト(?)をしています。御屋敷には渉の親戚である公任という人物もいて、渉は昔から公任に片想いをしています。しかしこの話の中では、公任は渉に恋愛感情なんてのは一切抱いてません。

実は、渉の崔護に対する性格はぶっ飛んでる部分もあるのだけど…シリアスにそれは不要なんでポイしました。崔護に関してもしかり。でも通常運転の二人も好きです。今回はなんだか渉が乙女だなぁ…(-"-;)でもその分、可愛い崔護がイケメン崔護に化けたので良しとしよう!!



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