story

□西遊記異聞伝
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〜第一章〜

青く晴れ渡る空に、綿菓子のような雲がプカプカと浮いている。

「良い天気だな…」

空を見上げ、悠波はポツリと呟いた。

旅を始めて早五日。
今のところ凶悪な妖怪と出会うこともなく、それなりに順調なスタートを切っていた。

懐に入れてある朱雀経典に、変化はない。近くに他の経典があると光り輝くというのは、悠波が出立の直前に僧都の一人から聞いたことだ。

(まだまだ、当てなく行くしかねぇか…)

ふぅと溜め息を吐くと、何かが近付いてくる音が微かに悠波の耳に届いた。見上げると白みがかった羽毛を纏った三本足の烏が、自分に向かって近付いてくる所だった。

「只今戻りました、悠波殿」

三本足の烏は悠波の目線の高さで静止すると、人の言葉を紡ぎ出した。

「あぁ。お帰り、帝月」

でも悠波は気にとめることもなく、帝月と呼んだその烏に左腕を差し出した。

帝月は神聖なるモノとして崇められる、八咫烏の幼鳥だ。中国では太陽に住むものとされ、信仰の対象でもある。

旅のお供として兄から授けられて以降、悠波と帝月は行動を共にしている。帝月は時折空に飛んでは、行く手の様子がどの様であるかを悠波に伝えていた。

「どうだった?」
「この道をしばらく行くと、小さな街があります。宿もそれなりにあるものかと。いかがなさいますか?」
「もしかしたら、何かしらの情報が得られるかもしれない。今日はその街で一泊だ」

肩の上に移動しながら話す帝月に悠波はそう返した。

と、突然イヤにじっとりとした風が吹く。纏わりつくようなその感覚に、周囲の空気が緊迫とする。

「悠波殿…!」

怯えにも似た、帝月の声。

「大丈夫だ。どうせ雑魚に決まってる」
「雑魚とは心外だなぁ、玄勢院の悠波さん」

ガサガサと植え込まれた低い木々が揺れ、そこから五人の盗賊が姿を現した。

種族は、人間。

(全て人間か…。この感覚からして、妖怪の盗賊と思ったが。いや、そんなことよりも…)

「何故俺の名を知っている?」

旅を始めてまだ五日。その間、凶悪な妖怪と出会いはしないものの、こういった盗賊や盗賊紛いの連中とは何度か対峙している。だが、名前を明かした覚えはないし、しかも徹底的に潰しているから悠波を知る者はいないはずだ。
それなのに、何故…。

「そんな細かい事はどうでもイイじゃん?どうせ持ち物奪われるんだからさ!」

言うが早いか、賊の一人が殴りかかってくる。

─ヒュッ!

悠波は難無くそれを避けたが、続けざまに別の者が悠波に殴りかかってくる。

「チッ!」

新しく殴りかかって来た者に足かけ払いをし、よろけた所に肘鉄を食らわせ失神させる。間髪入れずに再び殴ってきた最初の一人には、鳩尾に拳を一つ叩き込んだ。

「ぐッ!?」

体が折れ曲がった所に蹴りを一発見舞えば、後ろにあった木に背中を強打したらしく、そのまま失神した。

残る賊は、三人。

「流石は玄勢院の次男坊。体術に秀で喧嘩が強いって噂、本当みたいだな」
「法力だけが俺の全てじゃねぇ。来るなら来いよ」
「上等!」

残った賊の一人が悠波へと襲い掛かる。そのスピードは最初に伸した二人の賊よりも速い。

「くっ!」

ただの右ストレートだが、余りの速さに見切るのが精一杯だった。
続けて放たれたエルボーのスピードも速い。カウンターを狙おうと間合いを取っても隙がない。

「相手はソイツだけではない!」
「!」

ナイフを振りかざし、残った二人の賊も襲ってくる。一人は腕を掴んで勢いのままに流し、もう一人のナイフはそのまま避ける。だがそれを避ければ、今度は素早い打撃が飛んでくる。

打撃を避ければナイフが、ナイフを避ければ打撃が襲ってくる。実に息の合った攻撃だ。

「チッ!」

大きく後ろへ飛んで、悠波は間合いを多く取った。

(今のままじゃ、接近戦はアノ三人相手には不利だな…。アイツらには得物もある。…なら)

素早く思考を張り巡らし、悠波は帝月に話しかけた。

「帝月、お前は俺の肩から離れて、木の枝に止まっててくれ」

帝月は一つ頷くと、近くの木へと飛び立つ。それと同時に、悠波は腰の帯に携えていたとある物を抜き放った。先に数個の鐶の付いたそれは、脇差し程度の長さの錫杖だった。

「ハッ、そんなんで俺らとやり合おうってか?」

ナイフを携えた賊の一人が笑う。確かに接近戦、連携攻撃に長けている彼らに、脇差し程度の得物でやり合うのは無謀だろう。


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