story
□溶け合わないから惹かれあう
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「アーウィン…アーウィン」
「う…ん…」
自分を呼ぶ声にアーウィンが薄く目を開くと、優しいグレーの瞳と目が合った。
「…フレッ…ド?」
相手の名前を呼ぶと、フレデリックはにこりと微笑んだ。
「おはよう、アーウィン。良く眠れた?」
「……まだ寝たい……」
「ハハ、そうだろうね」
お前一応夜行性だもんな。
そう言って笑うフレデリックは子どものようだと、アーウィンはぼんやりとする頭で思った。
「僕はそろそろ出掛けるよ。テーブルの上にいつもの置いてあるから、目が覚めたら飲めよな」
アーウィンの額にかかる髪を掻き揚げ、露わになった額にそっとキスをするフレデリック。その行為に驚きアーウィンが目を見開くと、フレデリックは悪戯な笑顔を見せた。
「じゃあ行ってくるよ、アーウィン。帰りはいつも通りだから。あとそれと…」
アーウィンの耳元で何事かを囁くと、フレデリックは部屋を出て行った。
フレデリックが出て行った後、アーウィンはボスンと枕に顔をうずめた。
(フレッドのヤツ……!)
あまりの恥ずかしさに頭が憤死してしまいそうだった。それは今だってそう。感情の起伏が少ない筈の自分なのに、耳まで赤くなっているのが自分でも分かる。
『愛してるよ、アーウィン』
優しいテノールの声が甦ってくる。なんであんな言葉をサラリと囁けるのか、アーウィンは不思議で堪らなかった。
いや、そんなことよりもまずは…
「その言葉は…私じゃなくて人間の女性にかけるべきだ…」
もう行ってしまったフレデリックに、アーウィンはせめてもの悪態をついた。
アーウィンは人間ではない。いや、人間だったと言うべきか。何にせよアーウィンは人間ではない。人間ではなく、「冥使」と呼ばれる深闇のモノだ。人間の血を啜り、永い時を生きるモノ。吸血鬼やヴァンパイアと呼ばれ、人間から忌み嫌われる存在だ。
フレデリックは、そんな「冥使」を祓う「祓い手」と呼ばれる者だ。俗にいう魔祓い士、ヴァンパイアハンターだ。
そんな相反する二人が、何故このような関係にあるのか。それについては割愛するが、フレデリックにはアーウィンを祓う気がないのは事実だ。いや正確には、フレデリックは「冥使」に共感を覚えている節がある。狩るだけの存在として割り切れないのだ。
だからこそフレデリックとアーウィンは同じ場所に、互いの隣に立てている。
「…フレデリック…」
小さく、アーウィンは名前を呟いた。普段は愛称で呼ぶことが多く、本名で呼ぶことは殆どない。ある一時を除いて。
フレデリックの行動のせいで、アーウィンはすっかり目が覚めてしまった。
もう眠れないなと確信したアーウィンは、ベッドから起き上がり衣服を纏った。