物語

□スイートホーム
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早く帰らなければと荷物を抱えて走るランプが踊る夕焼けの市場。
私を振り返りながら前を行く栗色が綺麗な髪の毛の彼は何度も何度も私に手を貸そうとしてくれているのだけれど大丈夫だからと笑ってみせて私は荷物をぎゅっと抱き直す。
だって私より少しだけ大きなその手の中にはもう既にいっぱいの荷物がぎっしり収まっているんだもの。
それに何だか楽しいんだもの。
私も頑張ったんだよって。
貴方と一緒に頑張ったんだよって言いたいんだもの。
二人を見送ってゆくランプの灯りが少し下がった眉尻の下の琥珀色をした目にキラキラ映って煌めいて。
ああきれいだなって何だかとっても嬉しくなった。
軽やかに靴音を鳴らせながら買い忘れはないかしらと抱える荷物にそっと視線を落としてみる。
一斤のパンにジャムの大瓶。
珈琲豆と紅茶の葉っぱにええとそれから甘い甘いチョコレート。
色とりどりの果物は二人が好きなものを買って来てくれれば良いからと優しい宝石色の瞳が笑っていた。
せわしなく行き交う人波の間をごめんなさいとすり抜けて見上げた空には願いが叶いそうな一番星。
家について皆で楽しい食事をしたら何か願ってみようかなんて。
そんなことを思っていたら耳に届いたおかえりなさ-い!と笑う声。
はっとして前を向けば一本道のその先で見つける見慣れた三つのシルエット。
浮かぶ窓灯りを背景にして手を振る蒼い瞳の優しい人と。
その隣できっと難しい顔をしてそれでも此方を見つめてくれている紅い瞳の優しい人に。
ああそれからそのがっしりとした肩の上で飛び跳ねている優しい子。

「おかえりー!小狼くーん!サクラちゃーん!」

私を振り返った前を行く彼の優しい笑顔に頷いて飛びきりの笑顔を返せば自然走るスピードが早くなる。
おかえりなさい、と。
私達を待ってくれている大好きな人達へ応える為に私は大きく口を開けた。



Fin.


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