公爵白蘭様と一般市民ディノツナ









「この街に新しい公爵が来るらしい」
「え?前の公爵様、優しくていいおじいさんだったのになぁ…じゃあ、挨拶に行かないとですね」

この話を切り出したディーノが、何故か浮かない顔をしている。
綱吉は不思議そうに首を傾げた。

「どうかしたんですか、ディーノさん」
「いや。その公爵の話なんだが…どうもいい話を聞かなくてな」
「え、悪い人ってことですか?」
「実際会ってみねーことには、なんとも言えねーが」

ディーノはやっぱり浮かない表情のまま、綱吉の手を握った。
急に温かなものに包まれて、綱吉がビクリと体を震わせる。

「ディ、ディーノさん?」
「嫌な予感しかしねぇ。ツナ、約束してくれ。一人で公爵のところに行かないって」
「…わかり、ました…」

公爵が新しく即位した場合、その管理下の住民達は公爵への挨拶を義務付けられている。
ディーノも綱吉も、勿論。
ディーノが何故そんなことを言い出したのかは、まだよく理解出来なかったけれど。
綱吉はディーノと約束を交わした。

それなのに。
それは、突然やって来た。


「公爵様の命令…?」

綱吉の家の扉を叩いた、公爵の使いだという男達。
屋敷への、強制出向の命令だった。
よりにもよって、ディーノが仕事で遠出しているこんな時に。

「公爵様の命に逆らうなら、罰が与えられる」

綱吉には、選択の余地もなかった。











「じゃあ次の者、入れ」
「あ、は、はい!」

公爵の館に出向していたのは綱吉だけではなく。
綱吉と同じように緊張した様子の住民達が数人。
皆、容姿端麗な気がするのは、気のせいか。
自分の場違いさと、想像以上の緊張感に綱吉は体を震わせながら、公爵がいるという部屋の扉を開けた。


「いらっしゃい♪はじめまして。僕が新しい公爵・白蘭だよ」


若くて、微笑みの似合う綺麗な男だった。
まさかこんな若い公爵だなんて、綱吉は別の意味で心臓を高鳴らせた。

「は、はじめまして…白蘭、様…」
「んー。様付けは好きじゃないんだ。堅苦しいのって嫌じゃない?」
「は、はいっ」

緊張が解けない。
ガチガチに固まった体で冷や汗を流し始めた綱吉に、白蘭は声を上げて笑った。

「あははは!緊張しすぎ。…綱吉クン?」

いきなり自分の名を呼ばれて、綱吉の体が大きく跳ねる。

「僕の民のことは、もう全てリサーチ済みなんだ。君はお家で野菜を作って暮らしてる、綱吉君だよね」
「は、はいっ…そうです!今度、白蘭さ、んにも持ってきますね。今の季節だと人参とか…」
「うん。あはは、いいねぇ♪」

白蘭が自分の言葉に、楽しそうに笑っている。
それがひどく綱吉を安心させて、微笑をも浮かばせた。
この公爵様も、きっといい人に違いない。
やっぱり、ディーノさんの考えすぎなんだと、そう思った。

「あの、白蘭さんも野菜お好きなんですか?」

思ったのに。
綱吉の言葉に、白蘭はまた楽しそうに笑ったまま言葉を返した。

「嫌いだよ。大ッ嫌い」
「……え?」

話が、噛み合わない。
綱吉は自分の耳を疑った。
今、あんなに楽しそうにしていたのに。

「僕がいいって言ったのは野菜なんかじゃないよ、綱吉クン」

ずっと微笑んでいた白蘭の瞳が大きく開かれる。
そこにある見たこともない冷たい眼差しに、綱吉は絶句した。

「…君のことだ」

微笑みの下に、ずっと隠されていたもの。
今まで、何を勘違いしていたんだろう。
この人、本当は最初から一度も笑ってなんかいなかったのに。

「君は誰よりも真っ直ぐで、澄んだ綺麗な目をしてる。すごくいいよ」

じっとりと重みを持った、冷え切った視線に射抜かれて。
足が竦んで、動けなくなる。


「おいで」


自分へ、伸ばされる腕。
だめだ。
これを取ったら、だめだ。

「僕を拒絶することがどういう意味を持つのか、わかってるんだよね?」
「あ…」

公爵に逆らうだなんて。
この街で、もう生きていけなくなる。
自分だけじゃない。
家族も、きっと、ディーノも。
絶望が色濃く、綱吉を包み込んでいく。


「おいで」


もう一度、白い腕が伸ばされて。
この手を掴めと、手招きされる。
ドクンドクン、と自分の心臓の音だけが聞こえる静かな空間で、綱吉は、最後に大きく息を呑んだ。


「…そう、いい子だね」


震える指で掴んだその手は、白蘭の心を映しているかのように冷たかった。
そのまま膝の上へ乗せられ、そっと抱き締められる。

「一日だけ時間をあげる。お別れの挨拶、きちんと済ませてくるんだよ?」

こんなにも優しく抱き締められているはずなのに、その中はひどく息苦しく。
耳に白蘭の熱い吐息を感じて、体が震えた。
悲しみと、恐怖に。


「大丈夫だよ。僕、自分の玩具は結構大切に扱うから」


震える体を宥めるように擦りながら、優しい声色で。
白蘭は更なる絶望を綱吉へ吹き込み、ゆっくりと瞼を降ろした。
















公爵様っていう単語を使いたかっただけだ。
白蘭公爵様による玩具オーディション。
お屋敷でツナちゃん奴隷生活が始まるのかと思うとドキドキせざるを得ないですね。
ディーノさんが助けに来るまでの辛抱だ!
でもたぶん光の速さで来ちゃう。

どうでもいいけどディーノさんのが公爵様って感じだよね!

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