ばんがいへん

□lointain/不思議な子
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両親の思惑は分かってる。この子を月草に嫁がせたいんだろう。特に、家を継ぐ俺のもとに。

「露ちゃん、想像と全然違っててびっくり」

思ったより高揚する気持ちに、言葉を矢継ぎ早に紡いだ。ただこの客観的な気持ちはひどく冷静で、自己分析まで始めていたらしかった。

この子は俺の手には負えない。否――手に入ったとして、俺が、この子を手放すんだ。

何かはわからないが、無限の可能性を秘めている気がした。
それを俺の、幼い頃から型にはまり続けてきた運命の中に閉じ込めることなど、出来ない。

美の枠すら簡単に破るようなこの子に、成功の定義をなぞって欲しくはない。
結婚で手に入れるような未来を、この子にあげたくはなかった。

「残念だけど俺、用事があるから――またね」

一見この子のために出したように思えた結論は、結局は俺のためであるということも同時に気付いた。

この子に対して負う責任の大きさを、投げ捨てた。手に入れたいものを手にいれたときの犠牲が、大きすぎたからだ。

だから、紫苑。

世間一般の「成功」と「社会的地位」と「名誉」を手に入れた俺の代わりに、「自由」を手にしたお前に託すから。
俺は脇役で、もう充分だ。


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