ばんがいへん

□lointain/おにいさま
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「……葵に言われて来たけど」
「嘘でしょ」
「嘘じゃねーよ。毎回、葵が俺に連絡して来る」

月草家へよく出向く母について、あたしもよく行く。紫苑はあんまり居ないけど、葵は勉強で部屋に居ることが多くて。暇だから、って口実を作って葵の部屋へよく行ったりする。そこでいろいろ話しても、素っ気ない葵と作り笑いの葵ばっかり。あたしはこんなに葵が好きなのに――

それで毎回葵に一方的に文句言いつけて、逃げ出して、紫苑に見つけてもらう。これが定番。だったら葵に会わなければいい、喋らなければいい、家に行かなければいいって自分でも思うのに、どうしても毎回同じ道を辿ってしまう。

好きなんだもん。

そんな理由にならない理由って、分かってるけど。

「……きっと、罪滅ぼしね」
「何のだよ」
「分かってるくせに……」

"紫苑が好きなの。"

ある日ちょっと告白してみた。これも、葵への当てつけみたいなものだった。葵はそう気付いてるはずなのに、「そう、頑張ってね」なんて笑顔で言ってみせた。

ばかみたいだった。そうやって逃げ道作ったって、結局戻ってくるのは自分。
好きって、そう簡単にやめられないわ。


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