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□作品越しの告白をします。
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「おせぇーぞテツ、さつきぃ…さつき?お前泣いてんのか?」

途中、泣いた顔なんか見せられない…という彼女をトイレに案内して、塗れたハンカチで腫れた目元を押さえていたから誤魔化せるかと思ったのだが、さすが幼馴染、青峰にはお見通しだったようである。遠目だったにもかかわらず一発で見抜いてぐんぐん距離を縮めた彼は、どうしたんだよ、と怖い顔でぶっきらぼうに言った。

「青峰君、そんなに責めないでください。赤司君、まだ練習は始まりませんよね、少しお時間いいですか」

早々に着替えている青峰や黄瀬は1on1をしていたが、まだ制服のままの彼は桃井の様子、そしてフミヤの様子を見て嗚呼、と頷いた。

「空き教室でいいな、黒子。青峰、黄瀬、桃井を頼む。落ち着いたらマネージャー業務に入らせろ。それまでは無理させるな」

「おう」

「わかったっス」

行こう黒子、と呼ばれてフミヤは赤司の後をついていった。そして適当な教室に入ってドアを閉められ、先に入った赤司は窓枠に腰を掛けてイスに足を乗せていた。

「赤司君」

「黒子……。下手な演技はもうやめとけ」

桃井は居ない。と射抜くような視線を受けて、フミヤはそうですね…とポケットに手を突っ込んだ。いつもつけているピンを付けて、少しだけ微笑む。

「赤司さんが初めてです、僕と兄さんを間違えなかった人」

悪戯が失敗したような顔をしたフミヤは、どうしてわかったんですか?そんなに演技下手でしたかね…。と悩む素振りを見せたが、赤司は、お前はお前で兄の方にはなれないんだよ、とごもっともな意見を言うだけだった。
赤司はそれで…?と言ってさっそく本題に入った。

「はっきり言ってしまえば、桃井さんの苛め被害の現場に僕が突入して赤司さんや黄瀬さんの名前をお借りして黙らせてきたってところです」

「粗方予想通りだな」

「そうですか。では対処の方法は赤司さんに任せます。…バスケ部が滞りなく回るのには桃井さんの力が必要でしょうから」

それを妨げる存在をあなたは許すつもりはないでしょう。逆に今度はフミヤが射抜くような瞳で赤司を見るとくくっ、と赤司は笑った。

「やっぱりお前は兄とは違うよ。似てるようで、違う」

「?何が面白いのか分かりませんが、よろしくお願いします」

ぺこり、と頭を下げるとひとしきり面白がった赤司はなぁ、と言ってフミヤの視線を戻させた。

「これは単純に興味なんだが、」

「はぁ」

……フミヤはきっと赤司が練習にさっさと戻りたいだろうと思っていたから、本題が終わっても話しかけられたことに首をひねった。一瞬の間をおいて、赤司は喋り出す。

「お前は兄の陰にずっと居るつもりなのか?」

「?どういうことでしょう」

質問の意図が分からない、とフミヤは肩を竦めてみせた。

「じゃあ言い方を変えようか。いくら求められたからと言ってテツヤに成り代わり桃井を抱きしめただけでお前は満足するのか?
好きなんだろう、桃井のことが」

「………赤司さん………?」

好きなんだろう、と言われて胸のあたりがざわざわとした。何で、何で気づかれたんですか?

(誰にも言ってないのに)

そう、誰にも言っていないのだ、この心の内は。誰にも。兄さんにも。

「急に脈拍が上がったな、汗も出てきているし、視線も泳いでる。僕に図星を指されて焦ったね」

「何で……」

「何で?そうだな、僕が気付いたのは偶然だが、フミヤ、君は自覚していないようで桃井を見ているよ。愛おしそうに。
だが安心しろ、きっと僕以外には気づいていない。テツヤも、実は自分の弟が自分に言い寄ってくる桃井を好きだとはつゆほど思っていない」

フミヤは混乱していた。だけど、それ以上に恐怖していた。……目の前にいて、沈みかける日と同じような赤をまとっていながら、自分が見慣れているその人ではないこの人は誰だ。

「赤司さん……それを僕に聞いてどうするんですか?」

僕には、この誰にも吐露できない感情を彼女に伝える手立てなんて、資格なんてないのに。

「どうもしない。ただ本当に興味さ。お前はどうするのか気になってね」

「………多分、どうもしないと思います。あと4日。あと4日でバスケ部に入り浸るのも終わりにしますし、彼女は兄が好きで、僕は兄も彼女も好きですから」

彼女を好きだ、と言ってしまったら胸のあたりがきゅうっと締まった。言葉にしてしまったらもう戻れなくなった気がして、何とも言えない感情に歯を食いしばる。

「そうか」

じゃあ、僕からフミヤに一つだけアドバイスをしよう。と、彼は涼しい顔をしてそう言った。光の加減からか、左目が赤ではなくて琥珀のような色に見えた。

「お前がこの3週間で撮った中で一番だと思う桃井の写真を、僕らとは別にして応募するんだ」

「……え……」

「どうせ応募する人数の枠は狭いんだから一人が2作品提出したって構わないだろうさ」

「え、まぁ多分気にしないと思いますけど…」

何でそんなことを…。確かに彼女の写真も他のレギュラーの人たちと同じくらい撮影したけれど、とフミヤは戸惑う。

「区切りをつけなければお前はきっと壊れるだろう。だからこそ僕が保証しよう、その写真が一つの区切りになることを」

兄も桃井もどちらも選びたいなんて欲張っているところはテツヤに似ているが、お前はテツヤより脆く弱い。再び立ち上がることなく崩れて腐る。
予言のように放たれた赤司の言葉はフミヤに突き刺さり、気づけばそうします、と頷いていた。

「話はそれだけだ。途中で兄の方を見つけて口裏合わせをしておかないとな、混乱を招くぞ」

さっさと立ち上がり教室を後にする赤司にフミヤは黙ってついていった。


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