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□彼らの輝き切り取ります。
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「ん〜…」

パシャ…

「へ?」

パシャ…

「フミヤ君!!」

「随分難しい顔をしていましたね、桃井さん。何を悩んでいたんですか?」

シャッター音が2回と、ひょっこり現れたフミヤに、桃井はバインダーとペンを小脇に置いた。
いつ現れた?なんて分かんない。彼のお兄さんのテツくんもそうだけど隠密に行動している時は本当にどこにいるかなんてわからないのだ。

「もぉ!!私変な顔してなかった!?」

それでもこの2週間で、彼がシャッターを切るタイミングは分かってきた。何か真剣になっている時か、自然体のままでいる時。だと思う。
今も集中していたからフミヤくん的にはいい表情してたのかな、と桃井は考えたのだけれど。

「変な顔…桃井さんはいつでも可愛いと思いますけど」

予想もしなかった変化球を投げられて言葉に詰まった。

(…可愛いと言われるのは慣れてるし、何回も告白のお呼びだしも貰ったけどっ…)

今みたいに、さらりと今日の天気を述べるように褒められるのにまでは慣れてない。

(兄弟だからかな、テツ君と同じでガキっぽくないんだよね…)

「〜〜…、次の5対5のチーム分けと一軍の誰を起用するか悩んでたの」

「そうなんですか」

脱線した話を元に戻せば、彼は特に追及することなく、ふむ、と悩んだように見えた。

「では青峰さんと黄瀬さんは別に。緑間さんと紫原さんは別に。兄さんはどちらがいいでしょうか。個人的には青峰さんと居るときが一番輝いていると思いますが…。
ああ。あそこで練習している白シャツの彼らは分けた方が実力発揮しますね、多分」

つらつらと思ったことを述べていくフミヤに、ぽかんとした桃井は、ああチーム分けのことを考えてくれてるんだと、メモを取る。

「あの坊主さんと、茶髪さんも分けた方がいいですし、そうですね…黒シャツの人と水色シャツの人は一緒だと面白い動きをしてくれます」

「…ま、待ってフミヤ君。メモが追いつかない」

「あ、すみません…大丈夫でしたか…?」

しゅん、とうなだれた彼は、動くペン先が落ち着いたのを見てから、1軍メンバーの相性の良し悪しを滔々と語って、しかも半数ずつにするという芸をやってのけた。

「すごい…私でも気づいてなかった選手の詳しい所まで見てるんだね、フミヤ君は」

メモを読むと、あっと驚くこともあって、ありがとうとお礼を言う桃井に。
フミヤはというと、どうしようもなく高鳴る胸を掻きむしるしかなく、眩い彼女から視線を逸らした。

「バスケは5人でするものだと兄さんが言っていたので、僕はチーム内での協力だとか信頼を撮りたくて。帝光のバスケはレギュラーの皆さんが上手すぎるのでそっちに眼が行きたくなるんですけど、よく見たら、選手一人一人に得意な部分だとか、輝く瞬間があって。色々目移りしちゃってたら…」

今みたいに語っちゃいました。すみません、桃井さん。迷惑でしたよね。と遠くを見て、誰かがレイアップシュートを決めるのを眺めていたフミヤに、桃井はううん、と首を振った。

「彼らの輝き切り取ります、そうしたいんです。ってフミヤ君が言ってた意味が分かったよ。よっし、このメモ見てさくさく作っちゃおっと!」

もう時間ないし!ドリンクまた作らないと!と気合いを入れ直した彼女に、ふ…とフミヤは笑った。

「桃井さんは大変ですね」

「え?」

それから、桃井の髪に手を伸ばし横から飛び出していた後れ毛を撫でつけてあげる。
忙しく動き回った際に、ポニーテールの束から飛び出してしまったのだろう。

「僕、お世話になってみて分かりました。マネージャーさんも、選手みたいなものなんだと。試合には出ないですけど、こうやって色んな準備をして、分析をして、重い洗濯籠を持って走り回って。
僕には真似できません。力ないので。それを、女性の身でこなしている桃井さんはすごいと思います。尊敬します」

見てくださいよ、この力こぶ。と腕をまくったフミヤの白い腕にはお世辞にも筋肉がついているとは言えなくて、桃井は幼馴染と無意識に比べたが、尊敬します…といった真剣な表情のフミヤに顔を真っ赤にして首を振った。

「そ、そんなっ…」

それでも彼女の髪は言うことを聞いてくれなくて、フミヤは彼の視界を明るくしてくれているピンで、そこを留めた。代わりに自分の前髪が落ちてきてフルフル…と首を振ると、兄にそっくりな顔がますます似た。

「みんな一緒に戦ってる。そんなバスケを僕は撮りたいです。なので、桃井さんも写って下さいね」

引き留めてしまいました。忙しいですよね。僕、俯瞰撮ってきます。そう行って二階に上がっていくフミヤを、桃井は…。

(な、何だろう。私の立場を分かってくれて、それをすごく褒められて嬉しいはずなのに、ちゃっかり美味しいところを持って行かれた感覚…)

ぱくぱく、と赤くなった顔を押さえながら口を開閉した。
撫でつけられて、留められた横髪に触れると…彼が写真撮る時に髪が邪魔にならないようにと常時付けているピンがあって。その行動にも首をひねりたくなる。

(わっかんないなぁ〜〜…)

写真と、テツ君と、動物好きなこと以外…彼のデータは結構ナゾだった。


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