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□はじめまして、女神さま。
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ふと背中に気配を感じて、フィルムを確認手を止め、後ろを振り返る。
すると、興味津々の不思議な赤い瞳がおや、という顔をして笑った。僕が気づいたことに少し驚いたらしい。
そのまま何気なく見つめあっているのも何だか変なので、柔らかそうな赤髪の毛先から雫が垂れるのを見た僕は、「汗、すごいですね」と声をかけた。

「ごめん、臭かったか?」

少しだけすまなそうにした彼にそう返されて、僕は首を横に振る。
単純によく動いてるなぁ、と感心したのだけれど、彼はそっちを気にしたらしい。

「いえ、大丈夫です。すごいなと思っただけで、気にならないですよ。練習お疲れ様です」

「ありがとう。…それ」

つい、と指されたカメラを見て、僕はなんとなく彼が言いたいことを理解した。

「今日はありがとうございました」

「納得出来るものは撮れたか?」

彼の興味津々な所は、この言葉に辿り着いていく。残念ながら僕の答えはいいえ、だった。

「僕、兄さ…兄の部活がバスケだってことは知っていたし、試合もいくつか見たことあったんですけど…」

目で追うのが精一杯で、今日百枚くらいシャッター切りましたけど、1枚キレイに撮れていれば良い方ですね、と苦笑いしてしまう。
俯瞰も良いけれど、バスケとは何かを見ようとしたら目が回ってしまいそうだった。

「バスケは動きが激しいから。…また来るといい。今日の様子だと迷惑にはならなさそうだ」

「!ありがとうございます赤司さん」

「ああでも、ボールが当たる可能性があるからそれだけ気をつけて」

「はい」

下手すると当たったことに気づいてもらえないかもしれない、なんて可能性もさらりと撫でていく彼は、話してみると、知性的で教養高いみたいなのに、遊び心も持っている不思議な人だ。
バスケ部の皆さんはそれぞれ個性的で面白い人たちばっかりだな、と僕がほのぼの思っている、と。

「黒子」

ピリ…と肌を刺すような威圧感とともに声をかけられて、持っていたカメラを握りしめた。何だろう、蛇に睨まれた蛙?

「なんでしょうか」

「俺は、お前が黒子の弟だから撮影を許可したわけじゃない」

「……はい」

それは薄々感じていた。撮影のお願いをしたときに、僕自身を値踏みされるような視線を浴びたから。今も子育て中の猫とか、縄張り意識の高い猫が毛を逆立てて威嚇しているような感じ(をもっとものすごくしたような何か)を一身に浴びている。背筋を伸ばし、そんな彼の次の言葉を待った。

「『野良猫の道』」

「…」

「という黒子の作品を見たことがある。銀塩の。あれは佳作だったが他の作品のレベルより高かった」

「…ありがとうございます?」

何の話かと思っていたのだが、あれは自分でも構図や構成を考えた中の一つで、好きな作品だったのでお礼を言ってみる。

「うちのバスケ部を撮るならそれ相応の結果が必要とされるし、俺もお前に強要する。それが出来るか、と練習中お前を見ていたが大丈夫だろう。今日は青峰に引きずられたからなんだろうが、前知識がなければチャンスを逃す」

「分かっています」

ただその場で衝動的に、なんて芸当ができるほど自分に実力がないことも。そして、下調べ、前知識を有することは僕にとって貴重な武器になることも。
目に力を入れると、絡んだ赤の瞳は少しだけ柔らかくなった。

「見返りは要求しないつもりだが、モチベーションに繋がるからな、何枚か貰えると嬉しいよ」

「あ、それは勿論です!そのくらいしかお返しできませんし…」

よろしくお願いします。僕は頭を深々さげた。
赤司さんは、すごく立派なキャプテンだと思った。

(それに…僕の作品に感想言ってくれた人って初めてだ…)

面と向かっては兄以外初めてで(まず僕が見つからない)、喜ばせてくれるのが上手な人だなぁ、と笑った。そういうキャプテンシーのある人ってなかなか居ない。

「フミヤ、ここに居ましたか。…赤司君と喋って居たんですか?」

珍しい組み合わせですね、と兄さんが、

「大丈夫さ。取って食ったりしてないから」

分かる人には分かる、窺う表情を浮かべていたことに赤司さんは気づいたみたいで、くすくす笑っている。

「…はぁ。桃井さんが戻ってきたので作戦会議しようとの伝言です」

「分かった。…黒子(弟)もその時みんなに紹介しよう」

「あ、はい。お願いします。…兄さんもお疲れ様です」

特に体力のない兄は、他の皆さんから倒れるなっ…!死ぬな…!と激励され、笑われ、叱咤されながら練習をこなしていた。
その様子を見ていたら、格好悪いとこ見せちゃいましたね、と兄は苦笑いしたのだが、僕は、兄さんすみません、何枚かとりました、とカミングアウトするとありがとうございます、と礼を言われた。

「フミヤ、今日は一緒に帰りましょうか」

「久しぶりに一緒に帰りますね」

はい、是非。嬉しそうにしたら、頭をなでられてしまった。…不覚。…兄さんの頭撫では力が抜けるんですよ。

「お前たちは仲が良いんだな。一般的に思春期の兄弟というのはどこか剣呑な雰囲気でいると思っていたんだが」

「「そうなんですか?そんなことないと思いますけど」」

「ははっ!」

図らずもシンクロすると、ヤベェ、面白い。と赤司さんはお腹を抱えた。何が面白かったのでしょう、ツボが分かりません。


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