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□幽霊部員じゃありません。
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「おーい、黒子って居るかー?」
「あ、はい。黒子は僕です」
とある日の昼休みも間もなく終わるという時間。ドアに凭れながらクラスを見回す見慣れない顔に、上級生?と当たりを付けていたら、短髪の彼が探していたのは僕でした、というオチでした。
「ぬわっ!?いつからそこに!!気配なかったぞ」
「最初から居ました。どなたか探していらっしゃるようだったので、お役に立てればと思っていたのですが」
まさか僕に用事とは思わなくて。すみませんでした。と深々頭を下げる明るい水色の頭髪に、彼は面食らったようだった。
最初はみんな言うんです。水色なんて髪の色をしているから目立つかと思ったら、と。すみません、僕、影薄いので。
写真部だよな?と彼が聞いてきたので小さく頷くと、探したかいがあった、と言われてしまって僕は首を捻った。彼とは一切面識がないのだけれど。
「写真部のコンテスト、出すのか出さないのか確認したかったんだけどさ」
ポリポリと頬を掻く仕草をした彼の言葉は歯切れが悪く、僕は…嗚呼、何かしらの帳尻合わせが回ってきたんだろうな、と察した。
「他の奴らが軒並み出さないって言ってきて、そもそも出れるか微妙なラインなんだよな。それで黒子、すまないけど…出てくれない?」
「はぁ…」
表情が読み取りにくい僕に、彼は僕が怒ったのかと、慌てて言葉を重ねた。
「いきなりで気乗りしないのは分かるんだけどさ。頼める奴他に居ないっていうか、ぶっちゃけ幽霊部員でも体裁上出してくれれば良いっていうか」
だけど、上塗りされた言葉の方が酷かった。
「お言葉ですが、僕、ちゃんと作品提出してますよ?」
幽霊部員じゃありません、と遠回しに言えば彼はさらに慌てたようで。
「えっ、お前籍置いてるだけの奴じゃなかったの!?一回も見かけたことない…つーか、名簿見るまで知らなかったつーか…」
マジで!?ごめん!と驚きつつ両手を合わせて謝る上級生に少しムッとしたものの、いつものことだから仕方ない、と諦める。このことに関してはもうあきらめの境地に入っています。
「僕、人より影が薄いみたいで。よく気づいて貰えないので気にしてないです」
「そ…、なのか。マジごめん。で、こんな失礼しちゃったけど…コンテスト…」
ダメかな?と要項を手渡してくる彼。ファーストコンタクトが最悪に近いのに、それでも僕に頼むと言うことは…そう言うことなんだろうな、と理解した。
上から下まで一読して、大体把握した水色の頭髪は、いいですよ、と首肯。頼まれたら断れませんし、こう内心ではずけずけ言ってますけど、先輩の顔を立てましょう、ということで。
「ちょうど暇でしたし、数合わせなんですもんね。手抜きが出来るほど巧くはないですけど、面白そうですし」
参加させて下さい。と首から下げていたニコン(僕はニコン派です)の一眼レフを撫でる後輩の、一回り小さい背に彼は安堵した。
「ありがとう。悪いけど、クラスと番号と名前、今、これに書いて欲しい」
「あ、はい」
どうぞ。と、手渡し返された用紙には、参加人数欄ギリギリに、黒子フミヤと書かれてあった。
「作品提出は顧問の所な、〆切は3週間後!よろしくな!ほんと助かったよ、黒子!」
「こちらこそ宜しくお願いします」
「ヤベ!もうすぐ予鈴鳴んな!んじゃっ!」
慌ただしく去っていく先輩を見送って手元に残った紙を見る。本当に困っていたようだから黙っていたけれど(じゃなきゃ、自分の所まで回ってこない、と僕は自分の影の薄さを理解している)…。
「はぁ…僕、人って軽くしか撮ったことないんですよね…」
専らお散歩しながら、風景や民家、鳥や野良猫、虫や花を撮影している僕は、テーマにある『人物』の文字に嘆息した。
「…兄さんに頼んでみましょう…」
同じく影の薄い双子の兄なら被写体になってくれるか、撮りやすい友人を紹介してくれるだろうと頼りにして、何時までの練習でしょうか…なんて思いながら、次の授業の準備をした。
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