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□酒は飲んでも&懐かしい音色
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「ありがとうございました、奥村様、千尋様、天女様―っ!」

ははは、と笑いが起こる。

「ジョッキ持って!カンパーイ!」

「「「カンパーイ!」」」」

ガチな課題を終わらせて。
それを全面的にサポートした千尋様に感謝をささげて、一杯ひっかけよう!というコンパが開かれていた。
大学3年目になると気の知れた仲間ができていて、その中でも幹事をやれているのに慣れている男子がもう酔っぱらっているような音頭を取って、初めは?ビールでしょ!のジョッキを飲む。
それにつられて周りもジョッキをひっつかんで、金の飲み物を飲んだ。

「とりあえず、ご飯ものと、一人5串くらい当たるように頼んどいたから、その後は各自の注文で。
グラス交換制らしいから、飲み干すことー。ちなみに、飲みきれないんだったら女子からのみ俺が飲みまっす」

「幹事ひっこめーっ!」

「あははははー」

「酔いつぶれろー」

「酷いっ!」

ビールは一口目がおいしいと思う。
どうせ学生たちだし飲むんでしょ?と言わんばかりに、どどん、とピッチャーに置かれたビールもビール好きにはたまらないのだろうが…。
自分は甘めの方がいい。それか、ワインの方が好みだ。

「千尋―、飲んでる?」

「飲んでる?って今始まったばっかりだし。
とりあえず、肉なくならないうちに食べちゃってる感じかなぁー」

「そうだよね、早めにプレート頼んじゃお。こんな鳥串なんてすぐに消化されちゃうんだからさぁー」

「うぇ…レバーはいやーん…」

他と違ったぐにゃっとした感じがいやぁ…とオーバーに言うと、飲んでる?と話しかけてきた彼女が、ん。と串を持った手を操った。

「はーい、あーん」

「いやん、好き嫌いないあなたが好きっ」

その先には友人の、グロスでてかる唇があって。千尋は茶化した。

「造血作用のあるもん食べないからこんなに白いんだぞー、もう」

美白の域越してるくせにー。

「おかあさーん…!」

「はいはい。千尋、次何飲む?」

付き合いのビールはさっさと片してしまって。次からが本命だ。
成人になったばっかりのときは、カシオレとか頼んでみたり、カルピスで割ったもの頼んでみたり、お子ちゃまな味覚から、ウィスキーに行く者あり、日本酒に走る者あり、焼酎、ハイボールってルートもあったなぁ。
他が洋酒に走ったりする中で、焼酎、あ、熱燗で!って言われてみろ、ツワモノにしか見えないよ。

「私、次キールがいーなー」

「ビールの次にそれかよっ!私はウーロン杯っと」

「セーブするのぉ?」

無難なチョイスをする友人に、にやにやとする千尋。

「言うでしょ。酒は飲んでも飲まれるなって」

「ここに貞操観念が凄い強い女の子を発見しました。絶滅危惧種です!」

「あーーもうっっ!私はあんたの方が心配!いくら、おごりだからって……。
今だってビール一気して…回りはやいんじゃ…」

「いーのいーの。最悪お迎え来てもらうし、送り狼対策もバッチリ」

あんたねぇ……。とほとほと呆れた声を出す。
確かに、送り狼になりそうなやつが数人いるが…。いつの時代も同人数の男女が集まったら女の方が強くて、そこは抑え込めるというのに。

「お待たせしましたー。キールとウーロン杯です」

ありがとぉございまぁす…。と、受け取るなり、すぐに口にする。

「送り狼なってくれたらねー。ほら、お酒の勢いで流せる気がする」

おいしい、とくぴくぴ飲む千尋。妙なアルコール臭がなくて飲みやすい。
ノミホだからかなぁ。お酒の成分が薄い気がする。
でもさぁ、コンビニとかで売ってる缶のアルコールって、度数低かったり高かったりするけど…どれもこれも薬品臭嗅いでるみたいでね。あと、何でもかんでも炭酸入れれば済むと思うなぁっ!炭酸でお腹が膨らむんだよ!

「あんた誰にお迎え頼むのよ。父親―?やめてよー」

白けちゃう。と笑う彼女。

「違う違う。未成年」

それに、冷静に切り返すと、さらにけらけらと笑った。もう、箸が転がっても笑っちゃうだろう。
飲みの雰囲気って怖い。ちょっと踏み外してもいいかな?って思わせて。
人を陽気にさせる。まぁ、陽気になるくらいなら。無口な人が饒舌になっちゃうくらいならいいけど。
笑い上戸、泣き上戸、絡み酒は勘弁。楽しく飲みましょーよ。

「なお悪いわっ!未成年に迎えに来させるとか…鬼―っ、千尋の鬼―」

誰が鬼じゃい。

「いいのよ。デカい美形だから。一見未成年に見えないから。
私の彼氏でーすって見せつけてやるのだー」

「こらこら、妄想入ってる。どっから妄想だこのやろー」

「みっちょーん……。ねぇねぇ……。5歳年下の男の子にガチの恋って、私ヤバイ…?」

「は、ぁ?ちょっと待て。妄想じゃなくて、願望なの?」

「願望だよー。ちょー、願望―」

ぺろり、と舌なめずりする千尋の目は据わっていて、肉食系のギラつきが見て取れる。
物の数分で空になったグラスを振って、続きを聞きたいなら、次はスクリュードライバーとにやり、と笑う。

(ヤバイ…。スイッチ入っちゃってる…)

このままなら確実にデカい美形の未成年にお出ましいただくコース。
でも。千尋の恋バナ?聞きたい。しかも年下…5歳下なら、千尋、早生まれだから高1?なんでそういうことになった。気になる。

「あ、すいませーん。追加で、スクリュードライバーお願いしまーす」

ここは乗らないでどうする?

(ごめんね、まだ名前も知らない美形くん?)

楽しければいいじゃない。それが大学生のノリってもんよ。



『ごめんね、私服で地図の場所まで来て欲しいの。お願い』

突発的な彼女のお願いに、携帯を持ったまま彼は固まった。
まだ、宵の口で、いつも彼女から誘われるコンビニの買い食いには早い。なぜだ?

『早く来てねっ!じゃないと、カウントはじめちゃうよ?』

10、9…と彼女の声で空耳が聞こえて、彼はがたがた…と机の上の勉強道具をかばんにしまった。

『分かったのだよ』

簡素にそれだけ返して、部屋着から外に出られる格好に着替える。
何だって、わざわざ私服を言う?差出人の名前は、奥村千尋。間違えるはずもない。だが、違和感…。

「……突然なのだから、おしるこ2本で手を打ってやるのだよ」

そんな文句を言いながら彼は、少し出てくる…、と上着をひっかけた。

「っと…メールのやりとり見てたらこんな感じ、かな…?ごめんねぇ、真太郎君。…千尋、潰しちゃった」

だって。こんな、純粋な恋心、久々に見たんだもん。許してね?

「しんたろ?」

「うんうん、今来てくれるからねー」

「ん、まってる」

こくん、と頷く千尋の頬は真っ赤に染まって、酔いかけの肉食系のオーラは吹っ飛んでいた。
代わりに、幼い…そうね、小学生くらいまではこんな感じだったのかも、と言うような従順な彼女は、友達のトップスの裾をきゅっとつかんで、こくりこくり…と舟をこいでいた。

「いいこ」

「あーっ、奥村さん落ちちゃった?かっわいー」

「はいはい、邪魔しない」

「ていうか寝てるじゃん。誰が送ってく?あ、オレ?」

「邪魔すんなっつっただろーが。いいの、もう迎え呼んでるから」

「えー。何だよ、手ぇまわしすぎ」

「あっはっは。あわよくば、なんて考えが甘いわ、ばぁか」

しっし、と狙ってきた狼を追い払って、眠る彼女を見る。
ビール、キール、スクリュードライバー、そのあとは甘口のリキュールを行ったり来たりして、ワインに突入した。
それ以上は、とひたすらに水を飲ませているが…いつ酔いが抜けるか、真太郎君には寝落ちが一番危険だから、ひたすら水飲ませて!って言わなくちゃ。と友達は思った。


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未成年の飲酒はやめましょう。と一応成人済みの皆さんで書いてますが、注意書き。
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