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□番外
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「あついー…」
「あ!敦、溶けるな!あと髪の毛…!!」
くっつくから、離れろ!と千尋は力の限り、その巨体を押した。
照りつける太陽の日差し除けには持って来いな彼氏だが(ちーちん扱い酷いし)、…紫の長い髪はそのままで、それが引っ付いてくるのだから暑苦しくなってしまう。
よく我慢出来るね、私は無理…と髪の毛をお団子にしていたら、うなじ美味しそう、とかじられたのは昨日。
バッチリ痕が付いてしまったから私もおろしている。
おかげで熱いが、羞恥プレイはまっぴらごめんだ。
「うーん、力入んねーし…ちーちん、アイス食べたい」
それには私も同意する。
炎天下で食中毒警報まで出ちゃってる今日この頃。お腹壊したら大変だから、と家庭科部の活動が中止されて早くも1週間。なんだかこのまま夏休みに入ってしまいそうだ。
そうなると学校もないし、敦もI・Hがあって暫く秋田に居ないから、ちーちんのお菓子食べたいー、と甘えて来る。こういう所可愛い。
でも選手に危険物出すののはダメだ。戦いを前にして熱の上がるバスケ部の見学と応援でかえてもらうことにした。
「アイスはないけど、しばれんぼうなら部屋の冷凍庫にぶち込んできた。だから、敦頑張れ」
「ちーちんサイコー、大好き」
ぎゅぅ…。
「あーもう暑い…!離れろ」
「ヤダし。部活前の自由時間くらいちーちん堪能させてよ」
部活休みになったから。と言ったら、迎えに行く!と毎日クラスにやってくる敦は、練習嫌いなのによく頑張ってると思う。
曰わく、負けるのはもっと嫌、なんだって。
「汗臭いだろうから却下。それに、早く食べないと敦のお菓子…チョコとかでろでろになるぞ」
止めたのに買った板チョコを見て千尋は言う。
「むー。ヤダヤダ、夏。食べれるお菓子限られてくる。暑いし、ベタベタできないし」
だからって、スナックばっかりじゃ口のなか渇く…。
と膨れっ面の敦は、そういいつつ夏限定のプレッツェルを食べて。
「うーん。敦はナマモノ食べないからそんなに心配してないんだけど。…うん、やっぱり大きい方がいいなぁ。…とうっ!」
「アララ〜、ちーちん…離れて欲しいんじゃなかったの?」
抱きついて、もぞもぞと腰回りやら、肩から脇腹までの長さを見当する。手の長さも計算中。
「嬉しそうに言わない。暑いのは確かだけど、抱きしめられるのは嫌じゃない」
ぞ?と言うと、敦が目を輝かせた。
「ちーちんがデレた…!可愛いし!」
「…黙れバカ」
「照れてんね。顔赤い」
…本当にバカ。成績は良いんだけど、私より良いけど…たまに謀られてる感じがする。
お菓子食べてるときはお花飛ばしそうな勢いなのに…。どうしてこう、ギャップがあるんだろう。バカ。
「……今から作ったら、I・H後だな」
「?何のこと?」
独り言だったはずなのに、敦は拾ってきて、こてん、と首を傾げてきたが、千尋ははまだ内緒…と言ってはぐらかした。
「えー…気になるし!ちーちん、俺に隠し事とか許さねーし!」
やだ!と言う敦。
「ハイハイ。敦に良いものだから、楽しみにしときなさい。ってことで」
「やっぱ気になるし!ちーちんのバカ!」
むむ、と頬を膨らませた敦に、千尋は苦笑した。
「…だから、練習も、試合も頑張って。応援には行けないけど」
ちゃんと、電話もメールもするよ。
いい加減離れて、手を繋ぐことにした。いかんせん、抱き合ったままじゃ周囲の反応が、リア充死ね!と痛々しい。
「…朝昼晩寝る前」
「薬か!?」
「ちげーし。でも、ちーちん薬ないと寂しい。ちーちん病だし。あ、やっぱ、病気だから薬ないとだめかも。
寂しいとやる気出ないし、みんなに怒られんのちーちんだし」
つかさず敦が、恋人つなぎにする。どきん、と千尋の心臓が跳ねた。
「あぁ…うん。分かった」
怒られるのは私だ。
何たって、荒木先生に直々に紫原のモチベーション下げさせるな。と頼まれ、モミアゴリラ先輩からは頼む!と暑苦しく泣かれた。
「それに、忘れたら…俺、帰ってきて何するか分かんないよ?」
ね、ちーちん。楽しかったもんね、忘れてないでしょ?とにやり…と笑う敦。
「うっ!…はい」
びくーん、と千尋の体が跳ねた。
その節は腰痛酷かったネ。
ある時、忘れた…ではなく、かまわなかったらむくれて、拗ねて。
どうしようかと悩んで…。お菓子作戦も、手作りケーキ作戦も失敗した。
段々急降下する敦の機嫌と。
どうなってるんだ!という周囲の目。
それに耐えられなくなって…。…何でもするから。と言質を取られたのが失敗だった。
(…美味しくいただかれちゃったもんな…)
「まぁ、帰ってきたらスるけど」
「敦!?」
「アララ〜間違った。本音が出た」
「なお悪い!」
「夏休み中だから大丈夫。入り込むの簡単。気絶して寝てもおっけー」
あああ!?すごい勢いで算段つけてる…!
「…もういいから部活行くぞ!//」
「えー…」
ちーちん強引だしー。顔真っ赤だしー。
「いいの!いいから行く!」
ぐいぐいと敦を引っ張って体育館に向かった。
☆
『なんか室ちんが東京見物したいって言うから、めんどくさいけどー帰んの遅くなる』
『そっか。会っておめでとうを言えるのは先か』
3位だったよ。と、今度のまいう棒の新作はまぁまぁだったよ、と言われるぐらいのテンションで言われて、千尋は固まった。
一拍遅れたおめでとうの言葉に、ほわぁっ…と嬉しそうな声が聞こえてきて、解凍されたが…。
わぁ、全国で3番目に強いバスケ部かぁ。今度荒木先生に試合映像見せて貰おう。
『ちーちんに会いてー』
『…寮戻ったら会いに来い』
『迎えに来てくんないの。それに…なんか煩い。何の音?』
『言っただろ。良いものの仕上げしてんの。ああ、ちゃんとおめでとうのケーキも作ってあるから』
敦は思い出したのか、ああ、と言って。
分かった。待ってて…すぐ室ちん引っ張って帰る、と電話を切った。
久々なお菓子にテンションあがったんだろうなぁ、とミシンを唸らせる。
千尋の言う良いものとは、敦のお菓子袋である。
隣に居る時間が多くなってから思うようになったが…敦は片手で紙袋やレジ袋を抱えて、もう片方で食べる。
つまり両手が塞がっていて、何かあった時に危ない。
それに、スナック類が多いけど、チョコも好きだ。
大好きだからお裾分けでよく口に入れられる。
幸せだね、と笑う敦は殺人的に可愛いし、つられて笑顔になるけど、よく手を汚す。
衛生的によろしくないし、とろけたチョコに不満があるらしい。
だから、肩掛けの保冷できるバッグがあったら良いんじゃないか?
そう考えては見たしショップも回ったけど、既製品じゃ無理があった。女の子向きだし、小さいし敦の背丈と腕の長さとミスマッチ。
そこで、部活も休止されて暇人になった千尋は考えた。
ないなら作れ!材料を買って夏休みの始めに宿題を済ませた後、没頭した。
電話から数時間後。
「よし、完成」
パチンと糸を切り、その他にほつれ糸がないか確認する。
「大丈夫そうだな」
んじゃ、詰めますか。
袋だけ作って中身を詰めなかったら、残念がってしゅんとなる…だろうと思って、昨日駄菓子屋で大量に購入したお菓子を山盛りにした。
「余裕で入ったな。よし」
試しに肩に掛けてみると、バッグの底が千尋の膝下に当たった。
ああそうだ。敦とは身長差があるから、彼のちょうどいいところ、になると、自分の膝丈までくるのか…、と笑いがこみあげてくる。
途端に、寂しさがこみ上げた。
「ぷ…あはは。……敦、早く帰ってこい」
寂しい、と言われて寂しくなって。
その気持ちの埋め合わせに、物を作って、思いをぶつけていたのはこっちだったのか、と千尋は思った。
(帰ってきたら…)
珍しいけれど、自分から…。迎えに行こう。
電話ではああいってしまったけれど。お帰りなさい、と、大好きだよ、って言おう。
そうすれば、敦は少しだけ驚いて…、それからぎゅぅ、と痛いくらいに抱きしめてくれると思うから。
(おおおおぉっ…!これは、なかなかいいぞぅ…!)
千尋には大きかった冷蔵バッグだったが、帰ってきた敦にかけさせてみると、ちょうどよく収まった。
改めて、サイズの違いを感じてしまう。
でも。
(喜んでくれて良かった)
気だるげな表情はどこへ?
喜びを前面に出す敦は、バッグの中に詰め込んでいたお菓子を早速食べ始める。
溶けてないチョコレートに感動している敦が可愛い。天使。
(あ、ちょっと。食べてもいいけど、ちゃんとケーキも食べてよ?)
(うん!おれ、ちょーしあわせ)
ありがと、ちーちんと抱きしめられた。
さっきまで感じていた寂しさは、影形なく消えていた。
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大きなバッグを貰いました。底が膝まで来ます。
でも、むっくんだったらちょうどいいんだろうなあ…と思ったら話ができていたw