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□とわんこの本
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『千尋さん、明日はお時間ありますか?』とメールで誘ったところ…。
『予定ないから、いくらでも!』と元気な声が返ってきました。
ウィンターカップに向けてまた始動し始めた誠凛に、やってきたチームメイト…。
捨てられていたのを僕が拾って、みんなで(主に凛先輩に押し付けてしまっていますが)育てているテツヤ2号に会いに来て下さい。
そんな内容のことを送ると、千尋さんは、即レスでわんこの本読んで勉強しておきます!とやる気満々でした。
いつか、動物は好きなんだけど、家に本が多すぎて、飼育するにはちょっと可哀想なの…と言っていたのを思い出した僕は。
(わんこの本を読んでおきます…)
って、どんなものなんでしょう?と首を傾げました。
文面からすごく喜んでくれているのが分かったので、内容は明日聞いてみましょう。
『でも、テツヤ2号って…テツヤくんの名前が何で入ってるの?』
『小金井先輩の命名です。僕にそっくりなので』
『テツヤくんそっくりって…、明日なおさら楽しみになっちゃった!』
どこがそっくりなの?と言ったメールも来ましたが、すぐに、やっぱり明日直接会ってたしかめるから!と言った千尋さんは、早く会いたいな。テツヤくん2号!と浮かれていました。
『2号にも君を付けるんですか?』
『テツヤくんを呼び捨てにし難いのです。わんこの2号でも、テツヤくんだから』
聞くと不思議な理屈を返してくれた千尋さん。それから何回かメールをして、おやすみなさい…。と、挨拶をしました。
翌日…。
全体の基礎練が終わり、ミニゲームも終えて、ミーティングをした後…個人練習に入る前に大荷物で千尋さんはやってきました。
体育館の脇で…ちょこん、と座ったまま練習に対して辛口評価(…主に火神君に対してですね)をする、小さな影を見つけて、千尋さんは固まりました。
「……!」
それから、キラキラキラ…と。
「テツヤくん!」
「はい」
「すごくそっくり!」
特に目がそっくり!と千尋さんは目を輝かせて、僕の方を振り向きました。
「テツヤくん2号!」
ユニフォームを着た2号を抱き上げて、僕と比べて満面の笑みで言います。
「わんっ!」
「おぉ…!テツヤくん2号も分かるのかな。テツヤくんとそっくりだって」
「わんっ!」
「そっかぁ、賢いなぁ…テツヤくん2号!…可愛い!」
むぎゅぅ…と嬉しさのあまり、2号を懐に抱きしめる千尋さんに、2号も尻尾を振ります。
…どや顔ですか、どや顔なんですか。
「千尋さん、その位置変わりたいです」
「あっ!ごめんね!テツヤくんも2号くん抱っこしたいよね!」
慌てた様子で千尋さんが、はいっ!と2号を僕に渡してくれました。
渡された2号は、尻尾は振っても、残念…と言った表情を作っていて。
(本当に人間くさいですね…)と、僕は少しムッとなります。
「違います。ボクが千尋さんに抱きしめられたかったんです」
ぎゅう、っと。と身振りもつけると…。
「へ…。えっ!?テツヤくん!」
何を言うの!と千尋さんは顔を赤らめました。
「2号が羨ましいです。本当ならこのまま千尋さんを抱きしめるんですけど…」
ちらり、と体育館の中を見ると…休憩中の皆さんから視線が刺さってきました。
「黒子、コルァッ!いつまで油売ってるつもりだぁ!部活中にいちゃつくんじゃねーよ!」
「そうだそうだー!」
ふぅ…。
「部活に戻ります」
2号をよろしくお願いします。と千尋さんに預けると、また2号の尻尾はぶんぶんと振り回されていました。
「はい、いってらっしゃい!頑張って、テツヤくん!」
「わんっ!」
2号の前足で手を振る千尋さんに見送られて、僕は中に戻りました。今のやり取りは…。
「なんかさっきのやり取りは新婚さんっぽかったな!」
ガシッと肩を抱かれたら、先輩達で。
「よし、木吉。旦那の方しごくぞ!」
「……;」
「面白そうじゃん!」
「はっ…旦那がダ(ウ)ンなってる…!キタコレ」
……すいません、千尋さん。帰れそうにありません。
「わんっ!」
2号もタイミング良く鳴かないで下さい。
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