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□と童話
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「テツヤくんは、シンデレラと白雪姫ならどっちが好きかな?」
「?」
きょとん、とした表情をした黒子は、じっと彼女を見て続きを促した。
彼女も知った風で話を進める。
「今週末に、図書館で読み聞かせのイベントがあるんだけど、ボランティアやらない?って司書さんに言われてね。
ちょうど予定がなかったから引き受けて。絵本を読んでねってリクエストだったから選んでるのです、が…っ!」
対象の子供たちが2才くらいで小さいから、あんまり込み入った話は理解出来ないだろうと思って、ある程度絞ったまでは良かったの…。
と視線を下げる彼女はいつもの携帯している革のバッグの中から大きな薄い本(not 同人誌)を数冊出して、机の上に広げて黒子に見せた。
「つまり、千尋さんはこの本の中でどれにしようか悩んでいるんですね?」
するり…と表紙を撫でる黒子に、
「是非とも知恵を貸して下さい、テツヤくん」
千尋はぺこりと頭を下げた。
「最初は桃太郎とか、一寸法師とか考えたんだけど、日本昔話って前回の読み聞かせのテーマで、男の子ばっかりだったみたいで…」
はぁぁ…どうしよう。
「女の子達を相手取るにも、何にしようか迷っている…と言った所でしょうか?」
「そうなの…奇をてらった本も捨て難いんだけど…親しんで貰うにはオーソドックスなのかな、とか考え出したら…」
もう…無限ループで、詰まっちゃった…。あぁぁ…今週末なのに…。と千尋は頭を抱えて。
「(くす…)ボクは、千尋さんが読んでくれるならどのお話も素敵なんだろうな、と思います」
一生懸命読んでくれると思いますから。ね…、と黒子が言うと、千尋は顔を赤らめた。
「テツヤくん。うん、私頑張るよ」
「ボクも見に行きます。午後から練習なので、バッチリです」
「テツヤくんが居てくれたら心強いな!」
わぁーい、とはしゃぐ千尋に…黒子はふ、と口の端を緩めた。
(可愛いですね、千尋さん)
「本は…そうですね。強いて言うなら眠れる森の美女…」
ですかね、と言って、束になっている絵本の中から黒子はそれを取り出した。
「眠れる森の美女…?」
「はい」
パラパラ…とページを捲る黒子は、王子の出てくる場面で手を止めた。
「大概の王子は、偶然だったり成り行きだったり…そんな運命的な何かで、主人公の少女やお姫様と結ばれたりしますけど…、この王子は自分からお姫様に会いに行くために戦います。
ボクは、努力する王子、格好いいと思います」
なので、これが良いです。是非読んで下さい。
と黒子が言うと、千尋はすぐに笑顔で頷いて、本を手にした。
「確かに、眠れる森の美女の王子様、お姫様のお話の中で一番格好いいもんね!
…ありがとう、テツヤくん!…来てくれた子たちにもそういう風にお話してあげる!」
きっと目を輝かせて聞いてくれると思う!張り切って来ちゃった!と燃える千尋に、黒子は頭を撫でた。
「どういたしまして。頑張って下さいね」
「……」
そんな優しい顔、反則ですテツヤくん…。
(私の王子様は…優しくて努力家です、ね…)
眠れる森の美女の王子様より、ずっとずっとカッコいい人。
ふふふ、と撫でられた感触に嬉しくなりながら、千尋は目を細めた。
「千尋さん?」
「は、はぃっ!!頑張るよ。頑張るからね!」
「顔赤いですけど、…何か別のこと考えてませんでしたか?」
「ぅ……」
(鋭い…!鋭いです、テツヤくん…)
バスケに生かすために、じぃ…っと人を見るテツヤくんは、人間観察が趣味なんだよね…。
何かあったら隠し事出来ない気がする…。
目を泳がせる千尋に、千尋さん、ともう一度黒子は呼んだ。
「………笑わない?」
「お話にも寄りますけど」
じぃ…と見つめる黒子。
(そこは、笑わないって言って欲しかったな…)
恥ずかしいよー。赤裸々な心の内を晒すのは。
「……テツヤくんが…」
ね?と首を傾げながら…一瞬、俯いて。
覚悟を決めて、こしょこしょ…と、耳打ちする千尋に。
黒子はというと…。
「…、千尋さんがお姫様だったらすごく競争率が高そうです」
と言ってから。
「それでも誰にも負けません」
胸を張った黒子は、千尋の言葉を笑うどころか、自分を選んで下さいね。
と微笑んで、…千尋の手の甲にキスを落とした。
「テツヤくん!」
なっ!と顔を赤らめた千尋。
「唇がよかったんですか?」
「そうじゃなくって……んっっ」
難しいお姫様ですね、と黒子は唇にキスをし直したのだった。
(なんか、スイッチが入ってるよっ…!?)
☆→
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しれっと懐に潜り込む彼が好き。