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□とエッセイ
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「今日もテツヤくんはカッコよかったです…ね」

「やぁあっ!音読っ!しない、でぇぇぇっ!」

「夏休みの感想文に、お姉ちゃんの本リスト借りようと思ったら…フフフ」

こぉんな面白い物発見しちゃったんだもん。これは、音読でしょう…?

と、暑くて髪を上で束ねている妹に片手で押さえつけられながら、千尋は鍵を付けておいたはずなのに!と喚き、小さな日記帳のようなノートを取り返そうとじたばたしていた。

「お姉ちゃんが彼氏とどんなコトしてるか一発でわかるわー」

「いやぁああっ!」

「彼氏出来たって報告だけして、どんなカレカノになってるかと思ったって全然話してくれなかったからヤキモキしてたけど。なるほどなるほど…」

「何で、鍵…っ!」

「お姉ちゃんの大事なものの隠し場所は、いつも机の小物入れの中でしょー」

ばれてる!!

ふむふむ、と読み進める妹に姉である千尋は、意気消沈した。

その目の速さが尋常じゃない。

一家そろって本好きで、シリーズものなどの続刊が出ると、発売日にブッキングした!ということ多々。

床が抜けるかもしれないから、と家を改築工事して作った書庫(書斎、というには規模がアレだ)には数万冊が保管されている…。

そんな家族の中でも一番速読するのが、妹なのだ。ちなみに千尋はじっくりゆっくり派。

一冊の…しかも、手書きの数十ページなど、あっという間に終わってしまう。

「はやく返して……」

妹が読んでいるのは、千尋の日記代わり…と言っては内容が偏りすぎだが…随想録だった。

千尋がこまめに書き記すものと言えば、本リストと通称される…今日は一日、誰の何を読みました、こういう内容でした、こう思いました…というノートであったのだが…。

シャワーを浴びているうちにやられた。

いつもの物だけじゃなくて、違うのがある!ピーンときた妹が鍵つきノートなんて何のそので、秘中の秘を読んで、あまつさえ音読していたのだ。

「うんうん。なるほど…。どれだけお姉ちゃんがテツヤくんに惚れてるかがよく分かりました」

はい、返す。

「感想いらないよっ!」

返された物をぎゅぅ、と抱くと、妹は苦笑いした。

「えー。でも、読んだらね、一言出ちゃう」

「う……そう、だけど……」

「お姉ちゃんがろくでもない人に遊ばれてるんじゃないってことが分かっただけでも収穫、収穫。今度、家に連れて来ればいいのに。文学少年なんでしょ?」

「そ、れはそう、だね」

最近は部活で疲れちゃって、授業中は寝てるけど(気づかれないのが凄いと思う。
ノートの取り忘れがないように、綺麗に書くのが最近の日課だ)、よく名作の文庫版を読んでいるのを見かけるから。

「だったらこの家、本の城だし。喜ぶんじゃない?」

本好きのオアシスだよ。私、奥村家の子で良かったって思うもん!と妹。

それは私も思う。それでもって、テツヤくんも…。

「……多分…」

喜んでくれると思う。

すごいですね…!と目を輝かせて何時間でもいてくれる、と思う。

でも。

「絶対、あんたとお母さんが迷惑かけるからイヤ…!」

「えー。ラブラブの邪魔はしないって、お姉ちゃん」

その言葉、信じられませんて!彼氏ができました…//って報告しただけで、根掘り葉掘り聞かれた記憶(トラウマ)が蘇る。

テンション高い二人に、テツヤくんがやられちゃうのが目に見えるもん!

「絶対に、ダメ。テツヤくんは静かで凛として芯がある感じなの。姦しく喋られたら圧倒されちゃってくつろげるも何もない!」

「ケチー。写真とかプリとかも見せてくれないし。テツヤくん謎の人のまま!」

「いいの!わ、私だけわかってればいいんだもん…」

ぎゅぅぅ…。テツヤくん随想録を抱きしめながら、真っ赤になる千尋、に妹は嘆息した。

「はいはい、ゴチソウサマですー。もう。ノロケるなら、違うノロケにしてよ!自慢話でもいいから、ルックスを確かめたいの!」

もちろん、黄瀬君よりカッコイイ人はいないけど。と言いつつ頬を染める妹。

(……テツヤくん、かっこいいもん……)

確かに、黄瀬君はモデルでオーラがあってカッコイイと思うけど、テツヤくんはカッコいいもん。私の中では一番だもん。

むぅ…。

「もう、部屋に戻って写真集でも見てなさい!」

実費で2冊(観賞用と、保存用…。お小遣い前借してたところが可愛いと思う)買っていた妹を部屋から追い出して、千尋はポケットに入れていた携帯を取り出した。


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