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□と時代小説
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「随分渋いのを読んでいますね。池波ですか」
「!…テツヤくん!びっくりした…」
「すみません、驚かせるつもりはなかったんですけど」
大丈夫ですか、千尋さん。
もうデフォルトになりつつあるこのやり取りも、少しの驚きで済まされてしまっていて。
千尋さんが、分かってくれないかな?と思いつつ、それでも彼女の驚いた顔は僕の楽しみになっています。
「うん。大丈夫だよ。いつもね、テツヤくんに気づけなくて悪いなぁ、って思ってるんだけど…。なかなか難しくって…。ごめんね、テツヤくん」
ぱた…と閉じた文庫版のそれは、時代劇にもなったシリーズでした。
確か、先週にドラマスペシャルで放送されていましたね。
「千尋さんが気にすることじゃないです。ずっと居る人でも、気づいてくれない時には気づいてくれません。そういう時はボクも気配消してたりしますし…気にしないで下さい」
千尋さんだけじゃないですよ、と言う意味で言うと、千尋さんは苦笑いをしていました。
「ん…。そう言ってくれるのはありがたいんだけどね。いつでも気づきたいな、そばに感じていたいな、って思うのは…我が儘になっちゃうのかなぁ」
「千尋さん、それは純粋にボクが嬉しくなります」
あんまり嬉しいこと言わないで下さい。
…我慢してるんですよ、これでも。
僕だって男の子なので。と言ったら、千尋さんはどんな反応するんでしょうか…。
見たいような、見たくないような。この問題はもう少し時間が経った後にしましょう。
「これでもね、見つけるのにかかる時間は減ってる気がするんだけど…やっぱり難しいな。…むぅ」
「あんまり可愛いことばっかり言うとキスしますよ、千尋さん」
「えっ!」
でも、ここ学校で…!と慌てふためく千尋さん。
確かにここは学校です。
…人の少ない図書室で、千尋さんは時代小説を読んでいて、僕は部活が始まる前にふらりと立ち寄って…。
何気ないこの時間が好きだったりするんですけど。
いつも思いますが、千尋さんは可愛すぎです。
「嫌ですか?」
「それは…そういうんじゃ…っ!」
だから、学校…!
「千尋さんは奥ゆかしいですね」
「て…テツヤくん、近い…!」
テツヤくん、待って!と千尋さんは顔を赤らめていますけど(千尋さんは赤面症です、そこも可愛いですよね)、僕、我慢出来ません。
「さっきも言いましたけど…気づかない時は気づかないんですよ。
つまり学校でもボクらはキスし放題です。
そして、ボクは千尋さんとキスしたいです」
ダメですか?と言うと、千尋さんは右を見て、左を見て…。
「ぅ…、でも、…」
「目、閉じなくて良いんですか?」
(する前提…!?)
「テツヤくん…」
…うぅ、と唸りながらそっと目を閉じる千尋さんは諦めたようです。
僕が時々頑固になることが知られてからは、少しだけ強引に行くことにしています。
千尋さんの頬に手を添えると、体がびくりと反応しました。千尋さんの頬を撫でて、柔肌を堪能してから。
「…、好きです、千尋さん」
掠めるキスをした後、もう一度…今度はぴったり重ねるようにキスをしました。
「……テツヤくん…」
唇が離れると、千尋さんは静かに目を開けます。
「怒りましたか?」
「ううん…。…私も、好きだよ」
「はい、大好きです」
きょろ…。周りを見回す千尋さんは口元を抑えながら、僕に話しかけます。
「…本当に誰も気づかないんだね」
周りに人がいるのに…。千尋さんはこそこそと秘密の話をするように僕の耳元に口を寄せます。
「僕の言った通りでしょう?」
「忍者とか、スパイになった気分。面白いね」
「発想が時代小説ですね」
読んでたからね…と本の表紙をなでる千尋さん。
「そしてね、ちょっぴり大胆な心持ちなのです…」
「?」
ふふ…と笑った彼女は、隣で座る僕の前に立って…。
「(…っ)千尋さん」
彼女が何をしようとしているのか、理解した僕は一部始終を見逃さないように、と千尋さんの目を見つめていました。
「…目、閉じてくれなきゃ無理です、テツヤくん…」
「はい。…ドキドキしますね」
千尋さんからしてくれるの初めてなので、と言うと、千尋さんは視線を落としてから、目を閉じて。
と言って、……これからはもっと頑張ります。と一瞬のキスと小さな努力宣言をしてくれたのでした。
☆感情移入少女と時代小説
途中、攻守交代して、リップ音を響かせながらキスをすると…。
「テツヤくんには敵いません…」
と言った千尋さんの手は少しだけ震えていました。
「どうしたんですか?」
「い、意地悪…。…ちゅっちゅって……」
気づかなくても、音が聞こえること、あるかもしれないのにっ…!
「すみません。恥ずかしがる千尋さんが可愛かったのでつい…。また、しましょうね?」
「……も、しません……//少なくとも、テツヤくんと二人きりの時しか…」
「ボクは見られながらでもいいですよ。千尋さんはボクのです、って言えますし…。
あ、でもやっぱりダメです。千尋さんの真っ赤になって誘ってるような顔は僕のためだけにしてください」
「さっ…!?」
そんな顔してた!?とぺたぺたと顔に触れる千尋さんの頭を撫でて、冗談です、と額に口付けました。
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真っ黒子w