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□とスポーツ雑誌
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「千尋さん…?」
すぅ…すぅ…。規則正しい寝息が聞こえ、僕は教室の中に入っていきました。
今日は体育館の床のワックス掛けの日だそうで、基礎練やったら解散!とカントクも最近の徹底的な練習から一転して、休息日になりました。
正直、バスケしたりないんですけど。と、前の席の火神君に言うと、俺もだよ!とストバスに行くことにしたようです。
隣の席の千尋さんは、黒子くんが行くなら、私も見学してもいい?と積極的でした。
最近は、大分慣れてきてくれたのか、火神君が不機嫌顔でも逃げようとしなくなってきてくれました。
バスケ部の先輩方に囲まれるのはまだ克服できていないようですが、千尋さんが努力しているのを見ると嬉しくなります。
バスケがしたくてうずうずしていたので、千尋さんには2つ返事をして、1時間程度ですから教室で待っていて下さいと言って…今に至るのです、けど。
「あ″?奥村寝てんのか?」
どうせ行く場所同じなら連れ立って行くぞ、と珍しく協調性を見せた火神君が大きな声で言うと、びくっと体が跳ねて、気怠げに頭を上げた千尋さんは…。
「…む、にゃ…。っ!わぁぁ!黒子くん、火神くん!!」
わたわたと口元を吹いて髪を整えて、枕にしていた月バスにヨレや折り目がないかじっくり確かめていました。
本にかける時間の長さが千尋さんです。
「おはようございます、千尋さん」
「おはよう…ごめんなさい!待っててくれたの?」
もしかしてっ!と、千尋さんは顔を青くします。
「いや、今来た所だからいーけど」
「…良かった…。あ、基礎練お疲れ様でした」
「おー。荷物まとめてさっさと行くぞ!」
火神君のせっつきに、千尋さんは月バスを鞄に閉まって…僕らはいつもの場所に向かいました。
「…千尋さん、月バスなんてどうしたんですか?」
その途中で、僕は疑問をぶつけます。
千尋さんは、本用の鞄を撫でて笑いました。
「図書室にないから、図書館からバックナンバー借りてきたの。練習たびたび見せて貰ってるけど、毎回すごい…だけじゃなくて、ちゃんと感想が言いたいから。ルールはこの前リコ先輩に合格貰いました」
バッチリ覚えたよ!という千尋さん。
この前、現国の時間に教科書を忘れたのにもかかわらず、ページ数と行数を言われただけで、一言一句たがわずに朗読する彼女を見た時は驚きました。
本に対する記憶力がものすごいんです。
「…学校ではそんな素振りなかったと思いましたけど…」
「秘密にしてたからね。…だって、説明し辛いし、ルール分かったからって一緒にプレイ出来ないから。…それでも、黒子くんや火神君がどんなことしてるのか、考えながら見たかったのです」
「千尋さん…」
えへへ、と頬を掻く千尋さん。
…どうしてこんなに健気なんでしょうか。
「黒子、予定変更だ」
その様子を見ていた火神君は、ボールを回しながらニヤリ、と笑いました。
「何ですか、火神君?」
「奥村、お前バスケ出来ねーとか言ってんじゃねーぞ。バスケは男、女関係ねぇ。教えてやるから一緒にやるぞ」
「えっ…」
思いがけない火神君の言葉に、いいの?と言う千尋さん。
どうやら、一緒にプレイできない…というところが火神君の琴線に触れたようです。
「ナイスアイディアです、火神君。千尋さんにもっと興味を持って貰えると僕らも楽しいです」
「あ…ありがとう!」
私、やってみたい…!と目を輝かせる千尋さんはすごく可愛かったです。
最近どんどん可愛くなるのでどうしましょう…。とりあえず、可愛いなぁ〜と言っている人を見かけたら隠密行動で潰しています←が。
「それに、奥村から何でか知らねーけど、強そうな匂いがすんだよ」
「……?匂い、する?」
強そうな匂い、ってどんな…?ふんふん…と袖口あたりの匂いを嗅ぐ千尋さん。
そうですよね、いきなり言われても分かりませんよね。
「火神くんはバスケ強そうな人が匂いで分かるんですよ。…でも、どうしてでしょう?僕は無臭なんですよね?」
ああ、相変わらずだな。と火神君。何気に失礼ですね。
「やってみりゃ分かるだろ。…やる気出てきた…!」
「…あの、火神くん。手加減してね…?」
匂いがするとかは、分からないけどね。何か、怖いよ…。初心者なので、本当に。
と…不安がっていた千尋さんでしたが、コートに立つとパッと表情が明るくなりました。
「おぉぉ…。ゴール高い…!」
「はしゃいでますね」
ぴょんっ!
「…ネットにも届かない…っ!」
「はしゃいでんな」
「すごい…見るのと立つのじゃ大違い…!」
「なぁ…あいつ制服のままやる気か…?」
あっ。コケました。
「千尋さん、とりあえず落ち着いて下さい。そして、下にジャージを履いて下さい」
…一瞬見えたピンクの何かは、僕の心の奥に閉まって置きます。
火神君が居なかったら、抱きしめた上にキスしてたと思います。
「あ、はい!…私ってば」
はしゃぎすぎちゃった…と、体育ジャージを引っ張り出して、不格好だけど許してねとスカートの下に履いて、千尋さんは準備万端でした。
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