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□お節介少年と透明少年
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「おい」
「……」
「黒子、てめ、無視か」
ああ゛?というと、ぱちくり…と瞬きした目がやっと俺の方を向いた。
「火神君…気が付きませんでした。すみません、何かご用でしたか?」
「用…ってワケじゃねーけど…お前最近大丈夫か?すげーボーっとしてんぞ」
それこそ、電柱とかにぶつかりそうな勢いで。
無気力、脱力だ。
(部活ん時は何ともねぇからいいんだけどよ)
「大丈夫です。問題ありません」
けどよ、だ。
「……何かあんなら言えよ」
ちらり、と黒子の方を見ると、また瞬きをして。
「はい、ありがとうございます」
火神君が心配するほど、そんなにぼーっとしてたんですか、気を付けます、と丁寧に頭を下げた。
想えばこの時から黒子の奴はおかしかった。
思い出すのもバカバカしいほどに、こいつは思春期の奴がこぞって経験するらしい(アレックス情報)病気を立派に罹患していたんだ。
しかも、病原体が隣の席とか笑わせる。
☆
(あ…りえねぇ…)
なんだ、この状況。
なんだ、黒子の顔。
(緩み切ってやがる……っ!)
いつもの無表情か、何考えてんのかわかんない顔どこやった?
授業の合間、プリント配布に後ろを見たら、あり得ねえモン見ちまった。
そんなわけで、俺は手に持っていた紙切れを落としてしまった。
するり…と床の上を滑るそれは黒子の隣の席の女子の椅子に当たって止まり…。
「あ、火神くん落ちたよ。黒子くんに、で良いのかな?」
「ぉ、おう」
「ありがとうございます、奥村さん」
「いいえ、火神くんに、だよ!」
「火神君、何、ハトが豆鉄砲くらったような顔をしているんですか?」
気持ち悪いです、という黒子に、俺はお前の方こそ気持ち悪いよ!と返して仕方がなかった。
でも、この一瞬のやり取りでわかったことがあるから、目の前で睨むのはやめといてやる。
(黒子、こいつに惚れてんな)
そん時の俺は複雑なツラしてたと思う。
よくよく意識を向けてみりゃ、黒子とその女が話している時…。
いつも寡黙な黒子が饒舌になる。
顔がゆるみきってる。
顔がゆるみきって、たまに笑っても居やがる(バスケ以外で表情崩すの見たことねーのに)。
だから。
(わっかりやす……)
と思うのだ。
だが、そいつに対してはそれが通常運転だから、そいつが黒子の気持ちに気づく様子はなさそうだ。
(……まどろっこしい)
ジャパニーズ奥手、というか、見てるこっちがイラつくようなそんな会話をし続けてる。
くっつくんならくっつけよ!って前からチャチャを入れてやりたいが。
どうやら黒子は俺が気付いたのに気付いたみたいで、余計なことはしないでください、と目で訴えかけてくる。
………。
(あーあー、分かったよ)
邪魔しなけりゃいいんだろ。
まぁ…、なんかあったら言えや。そんで、お節介くらい焼かせやがれ、バァカ!
☆
「……黒子…目、血走ってんぞ」
「……眠れなかったもので」
「お前、無表情で血走ってるとか、こえぇ以外のナニモノでもねぇよ!」
「火神君も試合前いつもこうですよね。ボクの一回ぐらいスルーしてください」
「いや、スルーできねぇから言ってんだけど!?」
何があったんだよ!とツッコミすると…ふぃ…と。
(目ぇそらしやがったっ!)
「おいこら、黒子…」
「奥村さん」
(は?)
……奥村なら、昼休みまたソッコーでどっか行ったけど。
って。あ。そーいや、こいつ昨日やけに早く出てって。
『…その奥村ちゃんと、黒子は下校デートなのか。……マジでリア充は爆発しろ!』
日向先輩が言っていた。
「奥村がどーかしたのかよ」
ま、それならそれでいーんだけど。こいつの片思いもなげぇこったし。
一度や二度帰ったって関係が変わるわけでもなんでも…。
「昨日から、お付き合いさせていただくことになりました。なので、嬉しくて眠れませんでした。もういいですか、火神君」
「おう。って、ええぇええぇぇっ!?ちょっ!おまっ……」
「うるさいです、火神君」
ちゅーっ、とお茶のパックをすする黒子。
てめっ、しれっ、と重大なこというなよ!
眠れねぇ、とかいいつつ、もう普通の顔に戻ってんじゃねーか。
「それと、あんまり奥村さんの前でこの話題を振らないようにお願いします。照れすぎちゃって逃げられそうになるので」
「ハァッ!?」
「現に居ないじゃないですか。火神君が騒ぎ立てたらなおさら一緒にいられる時間が少なくなります」
「………、……はぁ。……」
いきなり、彼氏の顔になってやがる。
そんでもって何なんだ奥村。恥ずかしくて逃げるとか。
「慣らしていけば問題ないそうなんですけど、時間がかかりそうなのでよろしくお願いします」
「……わ、ぁかったよ」
…仕方ねぇからつきあってやんよ。
☆お節介少年と透明少年