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「おぉぉ……なんというか、これは…想像してた以上に……」
うん、カップルシート滅びればいいよ。小さな声でつぶやく千尋であった。
偽装カップルとしてケーキ店に入り、案内された席の周りは、ちょうどお昼すぎて、おやつの時間帯ということもあって、満席で。少女漫画でしか出てこないと思っていた、あーん、やら、クリームついてるぞ、ペロ。とか……。
(何で普通にやってんだよ、周りのカップルリア充過ぎるだろ!)
「でも、俺とちーちんもやったことあるじゃん」
「うん、まぁ…。むっくんの勝手気ままに任せて、な」
どれもこれもこっ恥ずかしいものばっかり!とフン、と鼻を鳴らす千尋。
「うん、俺は満足したし。またしたいなー」
「……よしっ!時間制限もあることだし、さっさとケーキ選びに行くぞーっ、オーッ」
「スルーすんなし。でも、ケーキ食べる」
のそのそ、とケーキが並んでいるところに行く紫原に、ほっと一息ついた。
(……、なんか今日は、……いつもより、迫られてて焦る)
いつかの屋上でのひざ抱っこのことを思い出して、千尋は赤面した。あれは、どうしようもなかった。あの後繕うのも大変だったし、氷室がにやにやしてたし(余計なお世話だって)。
「ちーちん、どれ食べる?」
「あー……。っと、むっくんは、全種類制覇しちゃうよ、なぁ…」
もちろん、ばっちり、とトングを鳴らす紫原が頼もしく見える。下手すりゃ2周くらいするんじゃなかろうか。
「じゃあ、チーズケーキと、イチゴのムース、チョコレートケーキ2種類に、奥のフルーツタルト、が、食べたいです」
とりあえず、押さえておくべきところは押さえておきますとも!色んな種類が食べれるように、一個のつくりが小さめなのがありがたい。
「分かった」
ちょっとごめんねー、と言いながら、ウイングスパン(という技らしい、マドレーヌうまかった!とわざわざ礼を言いに来たモミアゴリラ先輩に教えてもらった)で後ろからひょいひょいケーキをつかんでいく様子は、遠目で見ていて面白かった。
前の方の客もびっくりしている。……そりゃあ、ねぇ。いきなり腕が伸びてきたらびっくりだろうさ。そんでもって、その腕の持ち主が2m越してたらびっくりだろうさ。
(バスケの技の応用が、ケーキ屋で役立つとは面白きかなー)
なかなか種類が多いのと、人も多いのでケーキを取り終るまでには少々時間がかかりそうだ。
「むっくん、飲み物はー?」
「オレンジジュース」
「はいよー。…席で待ってるから、取り終ったら戻ってきてー」
「んー」
ケーキの陳列場所とは別に、設けられているドリンクコーナーで、紫原にはオレンジを、自分にはカモミールティーをティーバッグで入れて、席に戻る。
ほどなくして、ケーキタワー…(という表現が一番しっくりくる。どういうわけか、しきりというか…なんか、プラスチックの支えみたいなのをもらって、積み重ねてた!)と一緒に紫原が戻ってきて、全種類とるとこうなるのか…と感心せざるを得なかった。余りの光景に、写真を取っておいた。うん、これは絵になる。何故かしら。
「じゃ、いただきます」
「いただきまーす」
わくわく。どれから手を付けようか迷ったけど、チョコレートにフォークをさして。
ぱくっ。
「…っ、うーまーっ!」
ガンッ
おおおっ、美味い。ほっぺた落ちる。幸せだーっ!
「むっくんは……、……大丈夫?」
「うん、おいしーよ」
「いや、今、ガンッて音…足かなんかぶつけたんじゃ…」
「だいじょーぶ」
背が高いと足が長い。…カップルシート、別名密着シート。つまり、少々つくりが小さい。…非常に不本意だが、紫原から見ると私はチビの部類に入るそう、なので大丈夫だが、巨体の彼にはつらいものがある、のかもしれない。
(……ちーちんの美味しがってる姿無防備すぎる…っ!)
……どっこい、こういう理由でした。
ハイ、紫原くん、千尋さん萌え3回目―っ。恋する少年は、いいねっ!
「そっか、ならいいけど。…美味しいね」
「うん、でもちーちんの作ったやつの方がおいしーよ」
「…ありがと。……また、なんか作れとか言うんだろ?このお礼に好きなの作ってやる」
「ポテチ」
「……」
「まいう棒」
「……よし、わかった。とりあえず、私は帰ったらフライヤーの準備をすればいいんだな!?」
「おお、ちーちんがヤルキだしっ…!」
「私は、時々あれだけスナック菓子ばっかり食べてて油分が体に溜まらないむっくんがうらやましく、恨めしくなるよ。体が資本なのに、スナック菓子……。よく体壊さないな…摩訶不思議だ」
半ばあきれながら、ぷすり、と次のケーキに手を付けた千尋であった。
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