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<家庭科部の奥村、奥村千尋。昼休み中に職員室荒木まで。というか、今すぐ来い>

「は?」

女子の体育教師、荒木雅子…。
いつも竹刀を持って怒ってるイメージのある先生が、私に何の用?

「私、何かしたっけ?」

いや。たぶんしてない。じゃあ何の呼び出しだ?
…って、考えたって仕方ないし、とりあえず職員室に行ってみるか。うんうん。

「失礼しまーす…、荒木先生は…」

あー、いたいた。入り口から見てもわかる。というか…竹刀は常時携帯なのね…。

「荒木先生、家庭科部の奥村です。呼ばれたんで来ました」

「お前が奥村か!」

「はい、そうです…」

ガシッ…!

(!?)

「よくやった!」

いきなり肩をつかまれ竦む。が、そのあとの言葉に、千尋は…。

「は、はい?」

思いっきり疑問符を投げかけた。

何を?だ。

「いつも練習だるい、試合出たくないメンドイ疲れる、バスケ楽しくない、が口癖だった紫原が、『ちーちんが試合見に来るから頑張るのは当たり前だし』って言って40分フルに出た」

「え、それって当たり前のことなんじゃ…」

「ないんだよ、それがっ!だから私は今すごくお前に感謝している!というか、お前がいることで紫原のやる気が増すなら、今すぐにでもバスケ部マネージャーになってもらいたいぐらいだ!」

「えぇええぇっ!?ちょっと、話が飛び過ぎ…。そもそも、私は家庭科部だし、応援しに入ったけど…バスケのことなんかまったく分からな…」

「そうか。それはそうだよな、スマン。私も興奮しすぎた。…お前らはカップルなのか?イチャついてたし」

「えっ!?紫原と私がですか?そんなことありません。ゆーじょーって奴です。氷室ともゆーじょーです」

…そうか?そうは見えなかったけどな、という荒木先生。
…ううむ、するどい。

「まあ、紫原に関しては、大型犬…体の大きな小型犬にすごい勢いで懐かれてる感じがする…こともありますが、ゆーじょーですよ」

多分。というのは、心の中で付け足した。
……、でも……これまで、数々紫原にされてきたことを考えてみると……。かぁぁ、と頬が熱くなるのを感じた。

「奥村?大丈夫か、顔が赤いけど」

「だ、大丈夫です…。……」

セクハラというか…なんというか、なことをされる仲です。というのは、高校生の私が、大人ばかりの職員室で言うことではない。

何も感じなかった訳じゃないけど、どうしてか…あのほわほわとした紫の体にされることはどれもこれも、警戒がなかった。

いつも、あとから思い出して赤面する…ってことはあるけども、勝手に入ってきて、勝手に出ていくような…自由さが彼にはあって、自分は自分のことをその通過点に過ぎないと思っているのだろうか。
そうだとすれば、少し…少しだけ、悲しさがあった。

「奥村。これからも紫原のことを頼む。手綱握っててくれ」

「あの、それはどちらかというと氷室に言っておいた方が安心できるんじゃないかと思いますが」

「普段はな。ウゼーだのムカツクだの言ってるが、なんだかんだ言って紫原は氷室になついている。
が、バスケのことになったら別だ。奴のことは奴自身のやる気スイッチ一つで別人格になってるようなもんだからな…。練習試合は見ただろう?」

「ああ、はい。別人かと思いました」

普段のゆるい雰囲気をどこに忘れてきたんだ?と問いたくなるような…厳しい眼差しが貫いたことをはっきり覚えている。陽泉のバスケは二つ名が付いているほど強豪で、例えそれを知っていても…あの試合には鳥肌が立った。

「普段とギャップがありすぎて少し怖かったかもしれません。でも…、紫原は紫原ですから。
バスケの試合が終わったら速攻でマドレーヌ食べてるの見て怒鳴ってやろうかと思いましたよ」

礼もしないまま、すぐに紙袋に駆け寄ったのを見たとき…。周りがまだ興奮冷めやらぬ様子だった、とか関係なく雰囲気ぶち壊すお小言を投下してやろうと思ったが、同時に…ああ、我慢してたんだ。と笑いもこみあげてきて小言爆弾投下は流れた。

「ああ。あの差し入れは奥村からだったな。私も一つ食べた、美味しかったよ」

「ありがとうございます」

にこり、と笑うと荒木先生は真面目な顔をした。

「奥村、紫原をよろしく頼む」

「………、できるだけ、善処します」

どう答えていいものか考えあぐねて、結局千尋は無難にそう返した。

「失礼します」

「ごくろうさま」

ひらり…と手を振る荒木先生に目礼して職員室から出る、と…。
ドン…と側頭部にやわらかたい物体が当たった。

「ちーちん、雅子ちんと何話してたの?」

「…紫原……」

噂をすれば何とやら、だな。

今の今まで話しに上っていた相手に、職員室に何の用だろうか?と言うと、ちーちんが雅子ちんに呼び出しされてたから気になった、と…何とも言えない理由が帰ってきた。

「?何言ってんのかわかんねーし」

ポリ、と口の中のポッキーを咀嚼する紫原に、千尋はふっ…と笑った。

「ちょっとお願い事されてただけだ」

「変なのー、あ、ポッキー食べる?」

「一本」

……三本とか一気食いは無理。

「あーん」

はい、と中腰になりながら、目線を合わせた紫原は、つんつん、と千尋の唇をポッキーで叩いた。

「ん、ありがと」

ポリポリ。

「なんだかちーちん子供みたい」

食べ方が。

「は?」

これ持ってて、とポッキーの箱を手渡された千尋は、頭に疑問符をたくさんつけていた。

「子供には高い高―い」

いきなり脇の下に手を入れられ、そのまま、Gに逆らって上へ。

「うっひゃぁっ!?うわっ、ちょっ…たかっ!高すぎっ!!!」

天井ぶつかるっ!?そんな高い高いをされたのは初めてで、じたばたと暴れる。

「やっ、やめっ…こわっ!高いよっ!」

「暴れたら落ちるよー」

「ひやぁぁぁっ!」

「ちーちん、高いとこ駄目なの?」

「積極的には好きじゃないっ、から…っ!」

助けて、と言わんばかりに紫原の首に腕を回す。
無意識だったのだが、…抱きつかれた側はカチコチに固まった。

(ちーちん、それ反則っ…!//)

(な、何のこと…!?)

はぁぁ…と膝から落ちる紫原に、やっと地に足がついた千尋はまだドキマギしているのだった。


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むっくんの高い高いは恐怖

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