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紫原と氷室の潰し、潰され合戦が終わり(引き分けっぽい感じで)、汗かいたし、本格的にお腹空いたし、デザートにしようよ、という流れになったのは帰寮してからだった。
別れて私はすぐにシャワー室に向かった。
先に掃除…も考えたが、長風呂で彼らを待たせてしまっては、一応招く側として申し訳ないからだ。いつもより気持ち短めにそれを済ませ、でもブローはしっかり行って。
1人部屋に戻ると、目途にしていた時間の15分前だった。
女子の端くれな私にしてみれば、僅かな時間も掃除に当てられて嬉しい。晩ご飯代わりのロールケーキは冷蔵庫に入れて冷やしてるし、ミルには開けたばかりの豆を投入済み。あとは絶妙な加減で挽いて、…あっ。生クリームたてるの忘れてた!
ささっと辺りを片づけると、「あと10分とかキツッ!」時計を見上げて悲鳴を上げた。
どーか2人とも長飯、長風呂でありますように。と思いながら、千尋は冷蔵庫に常駐する生クリームにグラニュー糖を加えて混ぜ始める。もちろん抽出も忘れずに!
(氷室とかに笑顔で文句言われたら立ち直れなさそうな気がするし、なぁ)
こう、精神的に。
(…紫原は案外辛口評価だし…新作出たら速攻で買ってるし)
…おいしい、と言われるのはうれしい。
コンコン…ガチャン…
「ちーちん来たよー」
「…ぅぁー…紫原。5分前とかないわー!今手離せないし!」
「えー。楽しみすぎて時間ちゃんと来たのにその言いぐさー」
「そこは誉めてやる。けど見て分かれー」
「生クリームぅー?」
「紫原が甘いのがいいって言ったから」
コーヒー苦いままは嫌だろ?だから、生クリーム乗っけで!
どうだー!と自慢げな千尋。…紫原はのそのそ歩いて目の前に立ち。
すぽ…
「うん、甘くておいしー」
「手で掬うな!舐めるなー!」
つまみ食い用に作った訳じゃない!と眉を釣り上げる千尋だった。
「ちーちんも食べればいいし。イライラには甘いものー」
えいっ。
「え。んっ…!」
カシャン…とアルミのボウルに、泡立て器がぶつかった。
「ちーちんの口の中狭いね〜」
なんだ、これは…。
「ふ…ぁ…っ」
「歯も小さいしー」
「は…ぁ…」
…紫原に、口の中に指突っ込まれてる…っ!//
「歯並びはいいけどー」
指、太くて…ながい…、し…。
あんまり、こっち…見んな…!じゃないと、抱えるのに必死になってる生クリームが、溶けてしまう。
「…む、ら…離し…て…」
甘い生クリームを上手く嚥下出来なくて、口の端から落ちていく。
「……ちーちん、あんまりえっちい顔すんなし…」
「してな…いっ//」
「…俺の指くわえて…」
…風呂上りでいい匂いするし…。
ギラリ…と紫原の目が光った気がした。
コンコン!
「Good evening! 千尋。…と、アツシ…。………俺邪魔?」
ばっ…!氷室の声に、千尋は弾かれたように紫原の体を押した。
「いらっしゃい氷室!」
ゴン…!真っ赤な顔で迎えた千尋。
「イッてぇし…」
…と。見事に壁に頭を打ちつけた紫原。
「ちーちんらんぼー」
すぐに頬を膨らませてむくれるが、千尋はおかまいなしに台所に逃げ込んだ。
「…そこら辺に適当に座って待ってて!」
「アララ〜怒った?」
「うるさい!//」
かける言葉も投げやりである。そのやりとりを見て、両手を上げて首を振った氷室は、とりあえず可愛い系の部屋のテーブルを囲むように座った。紫原も倣うように座れば、その空間だけ暑苦しい。
「アツシ…さっきの状況何?」
俺、イイトコ邪魔したかと思って出直そうかと思ったよ。と軽口を叩く氷室。
あー、あれはねー。と気にせずにほわほわと紫原が応じる。
「ちーちんイライラしてたから生クリーム突っ込んでた〜。えーと、何だっけ。…指フェラ?」
…ズカシャンッ!…音の方を見ると、千尋がシンクに寄りかかってぷるぷるしていた。
「千尋、大丈夫?」
「……大丈夫…っ!手滑っただけ…っ!んで、紫原、黙れ…!じゃないと、淹れたてコーヒーぶちまけたくなる…!」
染み抜きは気にするな…!今なら何回でも叩いて抜いてやるっ!
「甘くしてくれたー?」
「…これでもかって乗っけたよ!」
しばらく生クリームなんて見たくない…!そんな鬼盛りのウインナコーヒーが運ばれてきて、氷室は吹き出したのだった。そして、お待ちかねのロールケーキも目の前に。
「わーい。いただきまーす」
「いただきます」
「……召し上がれ」
ふてくされているのと、紫原を警戒しているのと、そもそも空間に入りきらないのとで、千尋は台所からこんにちは。
限界まで巻いたケーキは、果実の酸味とクリームの甘味のバランスがちょうど良くため息が漏れた。
(我ながら、上出来…。自画自賛…)
単価高くてもいい、これなら買う…と悦に入る千尋。
(…今度はもうちょっとリキュール入れて大人の味にするのもいいかもしれない)
「ちーちん、おかわり」
「食べるの早いわ紫原!味わって食べたのか!味の感想等々を述べよ!」
「おいしかった〜。また今度作ったら食べさせてね、ちーちん」
「また集る気…!?」
「おかわりはー?」
のほほん、と花を飛ばす紫原に千尋は突っ伏したのだった。
(氷室…何だろう、小さい子供か、獣に餌付けしてる気分なんだが)
(……アツシ、ヒゲになってるよ)
(んー。(ペロリ…)ちーちんの中の方が甘かったな〜)
(…噛まれたと思うんだ、私…!)
ぷるぷる、と…震えながら、千尋は公開羞恥プレイに耐えていた。
(今度は、甘いだけじゃなくて、ビターな感じにしてね、ちーちん)
(!……、……作ってもやるか、ばーか)
別れ際のセリフが、自分の考えていた次作に似ていて目をそらしたのだった。
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個人的に、むっくんに泡ひげとか可愛い!と思う。