マリオネットとワルツを

□作品番号Op.18
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ドサ…という音とともに、孜はペルソナに投げ出された。
場所は使われていない座敷牢のようで、物はなくがらんとしている。
近くに孜とは違って丁寧にのばらを下ろし、ペルソナは蝋燭を灯した。

「さて…、お前には聞きたいことがいくつかある。のばらがトランス状態で目覚めるまで私の質問に答えろ」

「えー。いやだって言った…」

ぶわ……

「………そう、こののばらちゃん巻き込まない程度で俺は腐らされるってわけね。ふぅん、あくどい手ぇ使うなぁ…」

「炬口孜。名前は炬口孜。初等部B組所属、年齢は11歳。誕生日は11/4の天秤座。血液型はB。身長は143cm体重は37kg。アリスは2つ所有。『マリオネット』『誘眠体質』…。能力別クラスは特力系。星階級はダブル。性格は明るく社交的でクラスの中心にいる。転入してきたのは佐倉蜜柑の転入翌日。転入時点でアリスを使いこなし、成績は良。いたって優秀なアリスである」

「うわぁ…調べたんだぁ…」

こわっ、と身震いした孜は、真面目な顔で調書らしきものを棒読みしたペルソナを見上げた。
胡坐をかいている孜に対し、ペルソナは立ったままで、どうにも威圧的だ。

「…普通に見れば、一般的なアリスだが…。そんな生徒が何故『私の名』を知っている?…棗を任務から連れ出して、佐倉蜜柑らバカ共と行動している一般生徒が、私の捨てた名前を知るはずがない。私がここに居たことも、だ。…お前は何者だ」

炬口孜。ハンマーで殴られたかのような重い暗い一発に、ぽりぽり、と場違いにも頭をかく孜はあっけらかんと答えた。

「何者、ねぇ…。ん〜…言ってもイイけどさ、そうすると俺が怒られるんだよなぁ…。ここは1つ、秘密、じゃだめかな?」

「…誰に怒られると言うんだ」

「あ、ムシですか。ソウデスカ…。本当お堅いよなぁ、零ちゃん」

いや〜ん。これ以上はぐらかすと俺、ゾンビになっちゃうね☆
ほら、腐食だけに。ところどころゾンビ化?

「ちゃん付けするな」

「じゃあ、零くん」

「その名前を呼ぶな」

「…なんでー。まさかペルソナの方がカッコいいからとか言わないよね?……行平先生が付けてくれた大事な名前でしょ?」

ね。

『…零…』

「!……、……」

「何だか知らないうちに、成長したと思ったら心の中じゃ現実と逃げっぱなしみたいで、久遠寺の手駒にされちゃって。いい様に転がされてるんだね〜相変わらず。ま、あいつの庇護下じゃ何をやっても上手くいくんだろうケド。
…うちの棗君とよーちゃん仲間に引きずり込んでシメシメって思わないでくれる?あ、あと葵ちゃんを返してくれる?」

言いたい放題好き勝手に言葉を散らかす孜に、仮面の下でペルソナは、今目の前にいる人物を記憶の中に探していた。

「……。お前の闇の方が深くて暗いといったな。……お前に私の何が分かるというんだ」

「わぁ。そんなこと聞いちゃう?俺には、零君のことは分からないよ。
…持って生まれたアリスで親に捨てられて、いわれのない迫害受けたり、折角出会って色々教えてもらった先生を追い込んだり、先輩をただ見送ることしかできなかったり?その元凶の下にいることしかできなくて、自分から目をそむけてたり?相変わらず、アリスのコントロールには難アリっぽい」

ふっふっふ。自分で立ってないのに、一端に闇語るんじゃねーよ。ゆがみ苦しみを他人様にぶつけてんじゃねーよ。そう言いたげな孜の口調にペルソナはますます閉口した。

「……。…何故棗を庇う」

「それぐらいしか出来なかったから。…いやぁ、俺って肝心なところに居合わせないらしいから、それならせめて肝心じゃなくて妨げになるようなものを取っ払ってやりたいなと思ってネ」

「……。…もう一度聞く。お前は何者だ?」

「……そうだねぇ…。とりあえず、お前らから見たら敵かな?」

くすっ。名乗るようなものじゃありませんよ。
歌うような口上。からかうような口調。

……。
ペルソナはすっと右腕を突き出し、手のひらを孜に向けると、腐食のアリスを放った。



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