マリオネットとワルツを

□作品番号Op.14
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コンコン…ガチャン

『はい。……、誰…?』

技術系に与えられている部屋の1つで、最優秀新人賞を獲得した…という特典で好きな部屋を1つ与えられ、その中で作業をしていた透は暗い室内に入ってきた誰かを見つめた。

ガチャン…

『おやおや、本当にあなたに会えるとは。五十嵐透君』

……知った顔ではないが彼は私を知っているようでしかも上級生…高等部生の制服を着ている。

『…何故私の名前を?』

『やはり石になるくらいなら、自分の思い人を売るのですねぇ。安い愛情だ』

くつくつ、と笑うその男は髪の毛をオールバックに、爬虫類のような鋭い目をしていて…こけた頬は青白く、全体的に…ねっとり?というか。
うん、人を観察するのはもう癖だな。

『何を言っているのか…私の質問に答え…』

カッ…

『っ!な…っ!?』

髪が…石になった?

『あなたのアリスは髪を媒体にしていると聞きましたのでね…抵抗できないように手も使えないようにしておきましょうか』

カッ…

『…目かっ…』

右手が針を持ったまま固まったのを見て、その照射先を特定した透は彼を睨んだ。

『…いい、実に良いですねぇ…。…思った通り、君の見目は私の嗜虐心をそそる…。五十嵐透君。私は御原…人からはメドゥーサと呼ばれている、…石化のアリスだよ』

ぞくっ…

『……』

『君は賢い女性ですね。だが、私はこれ以上何も君に情報を与えない』

『…何をする気?』

『……君が思っている通りですよ』

彼は石にした透の両手をネクタイでくくった。

『っ…』

ぴくっ
顔をそっと触られる、とその冷たさに顔をのけぞらせた。

『初めて、でしょうねぇ』

『…何よ』

『いつまで粋がっていられるのか見物ですね…』

『んっ…ぅっ…!』

『…透君』

キリッ…と睨む透の顔が御原の征服欲を刺激する。

『イイ声で啼いて下さいねぇ…』

くっくっく。

『誰がっ…はっ』

『じゃじゃ馬を飼いならすのも楽しみの一つだ』

『…サディストが』

『君のその口の利き方も改めないと』

つ…と透のリボンを解く。
きっちりとめられたシャツのボタンに手を伸ばせば、透は身を竦めた。

『恐くてたまらないでしょう?それなのに、強情を張れる。イイですよ』

(触らないで…イヤっ!)
いやぁあっ!


………
……



次に透が目覚めたのは…見知らぬ天井を持つ誰かの部屋だった。
恐る恐る手を見ると、石ではない。
その手で髪を触ってみると、いつもどおりの黒髪。

『……ゆ、め…?』

御原という蛇みたいな男が、いきなり部屋に入ってきて、自分を襲った…。
喚いて喚いて、どうなったか覚えていないけれど。

『…そう、…夢、か…ハハ…』

あんなリアルに恐い夢、見るなんて。

『…睡眠時間、ちょっと増やして…』

きっと、人形作りに没頭しすぎてからだが悲鳴を上げたんだ。

『お、目ぇ覚めた?嬢チャン』

ひょこっ

『!?』

物陰からいきなり現れた人物に驚いて体をのけぞらせると、ズキッ…!突然下腹部を襲った痛みに、透はベッドから落ちそうになる。

『アブな…っ!』

が…その人物が慌てて透を抱えてくれたので地面とご挨拶はせずにすんだ。

『…ちょぉ…危ないなぁ、自分。…アチコチ怪我してんねん…労わってやり…』

パシンッ…

『触らないでっ!!』

その人の手を跳ね除けてしまう。
…顔の輪郭も目鼻立ちも…髪の色も何もかも、彼とは違うのに。

『あっ…ご…ご…め…』

『……危ないからな。水、持ってきてん。喉かわいたやろ、飲み』

『……』

サイドテーブルにお盆ごと水の入ったコップを置くその人。
透はその水を黙って飲んだ。

『……ごめんなさい、ありがとう』

『ええねん。とにかく今は眠り』

『……恐い…』

『…眠れへんの?』

眠るんが恐い?その人が透の目線まで降りてくる。
と…銀に近い白髪を適当にくくった髪の分け目から、限りなく薄い水色が見えた。
雪のような印象のその人をじっと見詰めて透は小さくうなずく。

『…しゃーない、嬢ちゃん』

『…はい』

『図工得意?』

『?』

まあ自分がそう思えればそれでいいんやけど…あんまり不細工やとやる気が違うからなぁ…と言いながらその人は、懐から普通の白い紙を取り出して半分に折り、はさみと共に透に渡し…。

『「獏」って分かる?その形に切ってーな』

と言った。
透は素直にはさみを動かし…バク…マレーバクの形を象る。

『…おぉ、これなら効果覿面や』

出来上がったものを受け取り、その人は「獏」と筆ペンで紙に記した。
そして、フ…と息を吹きかける。

『これで全部いやーな夢はコレが食べるからな』

よしよし、よく働いてくれなー。と紙をなでてその人は透の胸の上に載せた。
すると一気に眠気が襲ってきたのだった。



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