マリオネットとワルツを
□作品番号Op.13
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「作品番号Op.1402、よろしうな」
《はい、気をつけていってらっしゃいませ。五十嵐透様》
午前中に初等部のほうでナルから昨今の「アリス紛失事件」についての注意を受けたあと、珍しく「道化の人形」が笑ったので透は本部の高等部校長室…つまり、行平一己の仕事部屋に行った。
「…来たか」
「着たけど?…何?『道化の人形』を使うんだから…『死の舞踏家』絡みだと思うけど」
ぶっちゃけ、ここまでたどり着くのにも人目を気に品柄で大変だったんだけど、どうしてくれんの!と一人がけのソファにどっかり座って、一己と対面した透はかりんとうを頬張りながら聞いた。
「…そんなのは気合だ(しれっ)。…最近の『アリス紛失事件』に関しては聞いているな?」
「あー。耳にたこができるぐらいには。中等部ほどじゃないけど、初等部もウワサ好きだし」
「ならいい。お前に任務だ、透」
「えー……。紛失事件について調べろってこと?病気とかウイルスの線も消えたわけじゃないのに…」
「今日はえらく反抗的だな」
珍しい。と言う一己だが、決定を覆らせる気はないらしく表情を一切変えない。
「だって…また高等部生に会っちゃったりしたら大変だ…!」
ガタガタ…。
思い切り震えだした透は、未だに、のだっちのピンチヒッターで教鞭をとったあの数日間のことを忘れられないでいるらしい。
ちなみにいうと、折角もとの姿に戻っているのだから…と、姫宮と一己の着せ替え人形で、どう考えたってコスプレにしか見えない服装で毎日通っていた恥ずかしさもある。
それゆえ、元の姿に戻るのに抵抗感たっぷりだった。
「今は、野田先生は「現在」に居るが…?そんなに嫌だったのか」
「…しばらく勘弁って感じ…。まぁ、いいや…。で?一己は私に何をさせたいの」
「まず、今回の『紛失事件』だが…『外』でしか起こっていない。既に数名『外』に居た生徒がアリスをなくしている…。そして、一様にある時点で忘却香を使われていて、前後の記憶がない」
それを聞いて、透は目を見張った。…杏樹は先生だ。生徒を不安にさせないようにそこら辺の情報はカットしている。
(まあ、その杏樹にパンダに耳アリシールをつけて、生徒のアリス紛失を知った蛍様などもいるのだけれど)
「……一己、それは」
…、杏樹は、この情報をどう受け止めたのだろうか。
……きっと、まだ引きずっている。
「どういうつもりかは分からないが…およそ、幹部に命令されての行動だろう」
「……だよね…」
自主的にそんなことを繰り返すようなあの子じゃない。
ふぅ、とかりんとうを食べる手を止めた透は、お茶をすすって、思い浮かぶ彼女と、それにしつこく付きまとう彼の姿を想像した。
「柚香…雅近…」
清楚でタフで戦う女の子と、腹黒で持ち前の無表情でその女の子を付回し、一時期は婚約か?まで持ち出した男の子。
一己によると、本部も柚香の盗みのアリスによる紛失だと当たりをつけているらしい。
Zのアジト探しに乗り出すために危険能力や優秀なアリスでチームを作るのだとか。
「わかったよ、一己」
だが、『死の舞踏家』はそれに倣わない。
高等部校長の最強にして唯一の手ごまである『彼女』はどこにも属さず、どこへでも行く。
行平校長の与えた『任務』を遂行するために。
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