願いを流れ星に込めて
□星一夜
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ガサリ…
眼前には高い塀。まず人力でよじ登るのは無理だろうと思われるそれからゆうに三メートルは離れた樹齢二千年はくだらない大木。
その太い幹に右手を当てて塀を睨むのはタータンチェックのスカートをはいた少女だった。
緩く巻かれた見事な黒髪がさやかに揺れて少女の顔が見え隠れするが…そのすべてが見えるわけでなく、薄い唇が口紅を引かれていて紅いことだけが強調されていた。彼女の顔の上半分は何の装飾もされていないベネツィアンマスクが覆っていた。しかし、その瞳は刳り貫かれていなく、彼女は視覚を奪われていた。
「……感じる気配は…一つ、二つ…微弱な力(アリス)で三つ…」
ふぅ…と、少女の口から自然とため息が漏れた。
誰もいない隙に、本部の建物から抜け出し、感覚に頼ってここまでやってきた。
アリスで周囲の状況を確かめて、確かに誰もいないと確信したはずなのに…何故かそうではなかったらしい。
(進もうか…戻ろうか…)
マスクの奥で少女は瞳を閉じ考えていた。風で付けている装飾品の類が小さな音を響かせている。
(成功することを期待しましょう…)
少女は黒髪を軽く束ね、呟いた。
「………力(アリス)解放……」
少女は、その場から背中に羽根が生えているのかと思われるくらい静かに飛び立った。
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