願いを流れ星に込めて
□星三十夜
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コンコンッ…。
隣で風邪を引いたときのような咳をしている千悠を横目にして、棗は席を立った。
アリス紛失。
クラスのバカが騒いでいる事件。
軽々しく、アリスがなくなれば家に帰れるなんてあるわけねぇだろ。
…特に。
特に、俺や…あいつみたいな奴らは。
「棗」
「あ、棗君もうすぐ授業」
ガチャ…
「あーん、っもうルカ君まで…」
「……」
『欲しくもない力を持ってしまった棗の、棗の気持ちが分かるもんか……』
蜜柑は口をへの字に曲げた。
「棗……どこ行くの」
「…別に」
ウサギンを抱えながら、走る。
周りには人気がない。
「棗……何かあった?……この間から、棗…なんか様子が違うから…佐倉とかに対しても……また…何かあった?」
『…棗が笑わないなら俺も笑わない…』
くしゃ…
「バーカ、何もねーよ」
「……」
ルカは頭をそっと押さえた。安心させるように棗が笑ってる。
…だけど、本当は、何があったの?棗…。
佐倉だけじゃないよ…千悠に対してだって…ずっと横にいても話しかけていない。
何が…。
『校長命令だ。…最近のお前が以前のようにすさんだ目をしなくなったと…その原因をその目で確かめてこい、と。
ついでにお前が最近よくつるんでいる毛色の違った子猫についても知っておこうと思ってね』
『何の事だ…』
『なかなか楽しかったよ。まさかお前がしおらしく席に座って試験を受ける姿を拝める日が来ようとはな。試験なんて受けてもお前には何のメリットにはならないだろうに。お前にはとうに帰る家も家族もなくなってしまったんだからな』
お兄ちゃん…お兄ちゃん…
『校長はこれ以上飼い猫にお気に入りが増えることを好ましく思っていない。特に毛色の違った子猫なんかは』
『……それはそっちが勝手にパートナーにっ』
『それは校長の本意とは違う』
みかん…
『せいぜい気をつけるんだな…。それと…千悠…』
『…千悠…?』
何のことだ、と近づく。
『嘘つきの「女神」に気をつけろ。お前にもうまく隠しているようだが…千悠○○○○○○○○○○。
それはお前も身をもって体験しただろう?』
その言葉が、信じられない。
俺たちの間に、隠し事はないと思っていた。