マリオネットとワルツを
□作品番号Op.9
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「ウチのもんに手ぇ出して…悪い子にはお仕置せな」
ぴっ、と鞭を鳴らした透はレオに向き直った。
「…お前ら、あの2人を捕まえてこい…」
ごくり、と生唾を飲み込んだレオが発した言葉はそれだけだった。アリスの使用に、バタバタと部下が倉庫からでて行く。
(ま、雑魚を捕まえてもなぁ…ウエのことはしらん奴ばっかだろうし、ほっとくか)
という理由で透は数人を見送った。
それが理由でまた甥が無理やってるなんてことは考えずに。←いやなことには首を突っ込みたくないの☆
「なんや…大スター様が直々にアイテしてくれるん?」
けらけら。
残ったレオを見て透は笑った。
「まさか…かの有名な『死の舞踏家』相手にたった一人じゃ勝ち目ないですからね」
そういうと、彼は片目をつぶって手を上げた。
「ふぅん…言うようになって。じゃあ…アンタはその相手に何をしようと立ち止まってるん?テレポートで逃げればいいやん」
「……」
レオは一瞬悲しそうな顔をした。そして、ピアスを外した。
「…交渉…ですよ」
くら…
“声”が透に届く。
「…Zはあなたを欲しがってる。勿論、貴女の顔なじみも大勢居ることですし…断る理由はないと思いますが?」
「顔馴染み、ね…」
柚香も…雅近も…。会いたい、なぁ…。
「……」
こつこつ、と近づくレオの足音。気づけば、ほとんど向かい合う形になっていた。
(……こんなに大きくなって……)
昔の影は…ほとんどない。
自分に甘えてきてはいたずらをして…怒られて、むくれて…。
性格はもともと悪かった。
反抗的だった。
彼がZにいる理由もなんとなく分かるから。
でも、でも…。
「リオン…どうして、あんたの”声”で命令しーひんの?」
コト…
透は素顔でレオの顔を見ていた。
やっぱり悲しそうなレオの顔。
「透おねーちゃん、ってさ。…ときどきすごく残酷だよね」
「…今は『任務』やもん…ホンマなら…出会い頭に捕まえてるところや…」
レオの細長い指が透の頬に伸びた。
「…捕まえるの?俺…透おねーちゃんなら、捕まってもいいかな…」
ぺたぺた、と触りながら苦笑いをする。
透はそんなレオをただ見ていた。
「…しょうのない子やわぁ…ホンマ。普通なら四の五の言わず捕まえる所なんやろーけど、お生憎様、今回の目的は子供らの救出であって、あんたらにはなーんのお言葉もなし!つまり、どっちでもええっちゅうことよ」
「…その投げやりな言葉、変わってないね」
ぷはっ…
思わず、といった体でレオは笑った。
「…リオン…」
透は特別な名前でレオを呼んだ。
「あの人形、まだとってあるん?」
「……うん…」
真面目な顔になったレオは、さっき蜜柑から奪ったネコを透に手渡した。
「……そう……」
透は蜜柑の人形を受け取った。
ドンッッ
「「…!?」」
天を突くような轟音。
その出所に心当たりがある透は頭を抱えた。
「…あー…悪いけど、話はここまでのようだわ。交渉決裂、作戦失敗」
「……っ」
先輩!行かないで!
叫べるものなら叫んでる。
…口が動かないのは、彼女が意図的にアリスを使っているからで…どんなことをしても、もうムリだということを暗示していた。
「じゃーねー!ま、もう会うことはないと思うけど、達者でなー」
手を振る透は、レオの気持ちを丸無視した。
『透おねーちゃん!お人形ありがとう!』
『どーぉ?レオだからライオンなのよ。我ながらこのタテガミは上手くいったわね』
『とっても嬉しいよ!おねーちゃん大好き!』
『大好きぃー?こらこら、レオ、そういうのは後々に取っておくものよ、言葉はね。手は出してもいいけどさ』
『…?あ、人形に名前が書いてある…LI・O・N…リオン?』
『(笑)…ライオン、って読むのよ、それで。まー、小学生には難しかったわね…フッ…』
『む、むかっ…』
『リオン…、ねぇ…。レオ、私これからあんたのことレオじゃなくてリオンって呼ぶわ。面白いから』
「本当に残酷だよ…透先輩は…」
バタバタバタ…
「レオさん!早くここから逃げてください!学園の奴らが…」
「ああ、わかってる。どうやら…失敗のようだしな」
動けない。
動きたくない。
いっそのこと、
「いっそのこと…『死の舞踏家』らしく…オレの四肢を折ってくれれば良かったのに…」
あなたの人形でも良かった。
他の奴らに支配されるぐらいなら…
学園という大きな檻の中で、
終わるくらいなら…
「大好きだよ…」
あなたにしか、言いたくない。
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