マリオネットとワルツを
□作品番号Op.9
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透は走っていた。
とは言っても自分の足ではなくバイクで。
ノーヘル…なのは、きっと一己がもみ消してくれる…(じゃないと警察に捕まって色々お咎めを受ける)ことを祈って、フルスロットルで爆走していた。
え?後ろで賑やかな音が聞こえるって?まっさかー←
まーまー、乗り辛いだろうドレスで、風のパンチラサービスしてんだから許してよ☆
とまぁ、こんな感じだった。
「いけっ!」
「あっ!おいっ!逃げたぞ!!」
蜜柑とスミレが一斉に走り出した。追及の手はすぐに二人に伸びようとして…
「動くな!」
「な…」
つめ…の言葉はやはり出なかった。
「…少しでも動けばこの先にあるダイナマイトに火をつける。…そうすればここなんて一瞬で火の海じゃねえのか?」
…コンテナに手をついて、今にも倒れそうとはいえ…
「…は?何を言ってる。お前にこの結界の中、そんな距離の倉庫に火をつける力なんか」
「あるさ」
棗が手に火を出した。
彼は「黒猫」の異名を取る天才アリスなのだから…。
「な…棗君…っ」
蜜柑たちが出口のところで止まった。
「さっさといけっ」
「「……っ」」
……そして、また走り出した。
「レオさん…」
「……あいつに隙ができたらすぐ瞬間移動で2人を捕まえろ」
「はい…」
全力疾走して、蜜柑とパーマは倉庫街を抜けようとしていた。
「……棗君のことだもの…きっと何とかしてくれるに違いないわ。今は棗君を信じて彼の言う通り一刻も早く学園にここを知らせなきゃ…」
「……」
ドクンドクン…
(……あいつ…あいつもしかして…)
「……パーマ、先行っててっ…ウチ…っ、棗ををみてくる!」
…すごく、すごくいやな予感がする…っ!
「ちょっと佐倉さんっ、待ちなさいよバカッ!戻るなんて正気!?あんた!」
来た方向に体を旋回させた蜜柑…。いきなりのことに、スミレの体は固まった。
(菜に考えてんのよ、あの子――っっ!!棗君が何のためにあたし達を逃がしてくれたと思って…連れ戻さなきゃ…っ!
ああでもそんな事してる間に一刻も早く学園に知らせないと!とにかく棗君が助かるためには学園への連絡が先決っ!それまで捕まって棗君の足ひっぱるようなマネしたら許さないから!あのバカッ)
スミレも走った。倉庫軍を抜け…あたりを見渡せるようになって…
(だれか人…か電話…っ)
ばっ!
「!!っ」
誰かに口をふさがれた。
「このままだといつまでたっても膠着状態か………ま、それもお前の体力気力がもつまでの話だけど」
はぁ、とレオはため息をついた。
「しかしお前が自分を盾にして2人を逃がすとはね…それって無駄な努力だったけど。俺らがそう簡単にあの2人を逃がすとでも思った?特にあのツインテールの娘…さっき組織と連絡取ったし、遅かれ早かれあの2人は仲間に捕まってここに逆戻りだよ。爆発を起こせば、あの2人も只じゃ済まない。大体、お前にここを火の海にしてまで学園に戻る理由なんてあるのか?」
…あるさ…大アリだ
誰が好きこのんでこんな地を這うような生き方選ぶもんか
屈辱の沼に頭を抑えるつけられるような毎日…
大事なもの1つ満足に守れずに
……学園もお前らも、何もかももううんざりだ
「…さっき言ってたな。『遅かれ早かれ2人は捕まる』って。今なら多分あいつらもまだ捕まらずにこっから少しは遠くに逃げきってる。今爆破すれば吹っ飛ぶのは俺らだけ。『無駄な努力』にならずに済む」
震える体を、とめどなく出てくる汗を…意識で保って、少しずつ後退して、もうすぐ外に。
『南方の…ここから2つ先の倉庫にダイナマイト…』
外に出たら、すぐに爆破する。
あと一歩、出たら…
「やめて!」
体に抱きついてきたのは…あの…バカ。
無効化で手に出していた火が消えた。
ドタ…という音で、思い切り腰を打った。
「な…てめ…」
「あほっ!何本気で火つけようととしてんねんっ!あんた死ぬ気か!?目覚ませボケッ!」
棗が放心しているその隙に、レオがまたピアスを弄ろうとして耳に手をかける。
それに棗が気づいた…
「力を…」
ドカァァアンッッ
「「「!?!?!?!」」」
「…オレの結界が…っ!?」
爆発音とともに、入り口付近のコンテナが跡形もなく消し飛んだ。もうもうと立ち込める白煙に、蜜柑は棗の腕をひっぱって逃げた。
だっ!
「に…にげたぞ!」
誰かが叫んだ。2つの影は…すぐに見えなくなった…。
こんな状況で、レオの心はゾクゾクとしていた。
握っていた…ネコの人形。…何度も見ていた…技術。間違えるはずがない…。
パシンッッ…
何かが地面を叱咤した。
「…真打ち……登場やで?」
煙が晴れたとき、その場に悠々と立っていたのは…懐かしい思い出よりも深みを増した彼女だった。
「ウチのもんに手ぇ出して…悪い子にはお仕置せな」
手に握っていた鞭にキスを落とした。
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