マリオネットとワルツを
□作品番号Op.9
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「…成程、通信機だったんだ、コレ」
(レオ)
「そんなヘロヘロの体で紫堂の結界揺らすなんてやっぱタダ者じゃないね。お前。ま、『跳ね返し』でダメージ受けてもう、ろくに力も体力も残ってないだろうけど」
(バレた…!!!)
レオは奪ったイヤマフを口元まで近づけた。
「…お久しぶりです、ナル先輩。先輩の可愛い生徒勝手にお預かりしちゃってスミマセン。ま、預かったっていってもお返しする日なんて来ませんけどね、永遠に」
『怜生…お前何でZに…』
(先生とレオって知り合い…!?)
「でも僕の方こそ驚きですよ。あなた程の人が何であえて学園の犬なんかに収まってんですかー?どちらかといえばあなたは、こっち側の人だと思ってたのにな」
「怜…」
怜生がイヤマフを投げ捨てた。
「さ・て・と」
「縛り直しますか?」
「いい。紫堂ここだけ結界ゆるめろ」
「レオさんそれは…」
「いいから」
カツ、カツ…と靴音を響かせるレオ。左手で耳を弄って…少しだけピアスの接合を緩めた。
「縄で縛られなくても抵抗できないってこと教えてあげなきゃね。ちょうど2人のアリスも訊きださなきゃだし」
(……どうしよう…え…)
くら…
「……知ってるかもしれないけど、僕のアリスは『声フェロモン』でね。普段はこの制御ピアスでコントロールしてるから分からないだろうけど、組織では主にこの力は『洗脳』に使ってる」
(何…!?)
「…お前のアリスは?」
ぐら…
「わた…あ…体質…」
レオのヴォイス…巷では魅惑のヴォイスとうたわれるそれが、スミレにまとわりついた。
『何があってもレオの“声”をきいちゃいけない』
はっ…
蜜柑が思い出した。ナルに言われてたことだ。
「パーマっ!耳ふさいで!!言っちゃダメ…」
カンッ…
カラカラ…という無機質直人を立てて、ボルトが床を打った。
息をあがらせて、全身に汗をかいていても目には闘志を燃やし続ける棗だった。
「へえ…まだ反抗する力が残ってたんだ。今のはこの2人をかばったつおもりか?」
(棗っ…)
「ではお望みどおりターゲット変更。なるべくならお前は僕の声で無害にしてから彼に引き渡してやりたいと思ってたところだしね」
ぐいっ…
レオが棗の横でひざをつき、左腕を取った。
「なつめ…!」
「どうせお前らはもうこっから逃げる事は出来ないよ。あの2人は海外行き。お前はめでたく『組織入り』」
…じわじわと…神経をむしばむ声…
「抵抗したっていいことないよ。無事ここから逃れたところで煙たい目に囲まれて学園でお前はまた汚れ仕事専門だろ?だったらZにくるのと何が違う?Zはお前みたいに学園を恨んでる奴ばかりだ。お前にとってもその方が…」
パシッ…!
『お兄ちゃん…』
まだ…残ってる。
震える体で棗はレオを押し返した。
「こいつ…」
「…やめろ…!」
蜜柑が棗の上からレオを押した。レオが驚いた。
「レオさん!このガキ…っ」
「……さっきから勝手なことばかり言うな。何で棗がお前らなんかと」
「…おい、こいつ。あんだけレオさんの”声”きいてて何でなんともないんだ…?」
(あ…)
『出来る限り自分のアリスを敵に明かしちゃダメだ』
「……お前、『無効化』か…?この顔………似てなくもない。『あの女』に」
顔をまじまじ見られた蜜柑。蜜柑は白を切ろうとするが、後ろでパーマがバレバレや…といっていた。
「は…おい今すぐデータを調べろ♪『あの女』について10年程前を徹底的に洗い出せ。おもしろいことになりそうだ。「黒ネコ」以外にこれは思いもよらない収穫があるかもしれないぞ」
くすくす、と笑うレオは…ふと視線をやった。
蜜柑のスカートのポケットからちらりと見えた…「人形」だった…。
「(…まさか…)……これは…」
蜜柑は咄嗟に手を伸ばした。
「それはウチのっ…」
だが、レオの方がコンマ数秒早かった。「ネコ」はとられた。
「…お前、これをどこで手に入れた」
「えっ…これは…」
レオは首や手足の関節のつくりをまじまじとみた。肉球のあの独特の感じまですっきり再現されている。
(…日本にいるのか…?)
「友達に…もろうて…」
「ふぅん…これも貰っておくか」
「ちょっ…」
…アメリカのどこを捜してもいなかったあの人が…日本に…?
「紫堂…『あの女』以外にも…」
その先は聞こえなかった。
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