マリオネットとワルツを

□作品番号Op.9
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「だめです。依然脱走生徒2名の行方が掴めません。たった今現場の教師から路地裏で佐倉蜜柑・正田スミレ2名の生徒手帳を発見したと連絡が。何か事件に巻き込まれたのでは…」

「初等部校長に緊急事態を報告しろ」

「先生方っ、千里眼での捜索のほうは?」

「…それがまったく霧がかかったみたいに2人の行方だけ見えないんです。まるでこちらの力が何かの結界に阻まれているかのような…」

「!」

ガラ…

「神野先生」

緊張が走る教員室…。ナルが入ると一斉に目がいった。

「お忙しい所すみません。実はこの子達の話を聞いていただきたいんですが」

「鳴海先生!今それどころでは…」

「…聞いたほうがええと思うよ。雷ばかりを撒き散らして…何も解決に向かってないんやから、ここは何事にも、どんな情報にでもすがりつくのがええ策や…とは思わへんの…?ホンマに嘆かわしいことですこと」

「「「…!?!?」」」

鳴海…蛍…ルカ…のどの語りかけでもなかった。騒然としていた教員室が一気に静まる。誰もが息を呑んだ。
あまりにも落ち着いた…黒を纏う女性。それは身体的な特徴だけでなく…彼女がおそらく無意識で放っているオーラが物語っていた。

「お、ま…え…」

いち早く見えない圧力から逃れた神野はそれでもまだ苦しげに呟いた。
Shi-…と彼女は泣き笑ったような仮面をつけたまま唇に当たる位置に陶器のように白い指をあてた。

「ウチの用件は二つ。まずはその子供たちからや…話してええよ。このオヤジがまだ何か言うんやったら…なぁ」

彼女がにこり、と笑った。蛍は周りが分かるくらいに大きく息を吸い込んだ
杏樹も同じことをする。

(…いつ見ても…慣れないな、先輩のこの姿…)

しかも、この10年会えなかった姿だ…緊張するのも無理なかった。

(…それでも、強い貴女は…)

好きです…。憧れだった。

「…さっきこの子達に言われて日向棗の病室を調べに行ったんですが、病室はもぬけの空で本人が病室の外をうろついた形跡も一切ありません」

「蜜柑達はレオが棗を誘拐したといってました」

ずいっ…と前に出る蛍。ジンジンが驚いた顔をした。

「これはその、証拠品です。多分。レオを捕まえて下さい。多分3人は彼らのもとにいるハズです」

蛍の持っていた指輪…。ザザ…というノイズがして、しゃべりだした。

『こいつが入院してるなんて… テレポートでリムジンのトランクに入れておけ』

パチパチパチ…
視線がまた女性に戻った。というのも…彼女が拍手をしていたからではない…勿論それもあるが、おそらくこの子達しか知らなかった事実を、事前に聞くことなく言い当てたからであった。

「ええこやねぇ。美人やし」

(((関係ないだろ…Σ)))

「どーでした?…聞いてみる価値、あったんやない?」

神野先生は唇を真一文字に引き結んだ。

(誘拐されたものが二人から三人に増えた…)

「…その通りや。大変なことになったんはこれでわかったと思う」

神野は突っ込まなかった。どうして、透が考えを読めるのか。彼なら知らない、とは言えない。
学園にいるころからずっと「人形」を造り続け、人体はおろか動物の生態をも細かく追求していった一人の酔狂な生徒。

(…しかし…五十嵐の本当に怖い部分は…)

怖い。確かに感じる…彼女の能力。忌避すべき女。

(…惹かれて止まないのは…高潔さゆえか…)

恐ろしい魅力を持った…嫌いな生徒。

「…だけど、安心しいや…嬢ちゃんも坊ちゃんも。ウチは校長の命により三人を救出するよう言い渡されたからなー」

(…校長といっても…先輩が…出てくるぐらいなら…行平校長なんだろう…)

彼の命令でのみ動いた…危険能力の例外。その存在を知ったのはいつだっただろうか。いつもは優しいのに、このときばかりは…先輩は冷たかった。

(早く…)

いつもの先輩に戻って…
それは…甘えからの好き?
岬は持っていたムチ豆を握った。

「…もう大丈夫やで。とは言っても…カミナリはじめ、頑固もんが邪魔しなかったら、の話なんよ。ちゅーわけで、ウチの邪魔をしーひんようにな…」

ゾッッッ
その場にいた全員の背が凍った。
艶のある…声は死の宣告をされるような…

「だけど、あっちから交信を諮ってきたときには積極的に指示を与えてたってください…可哀想な子供たち…寒いトコにおるんよ」

「居場所がわかるのですか!?」

聞いてきたのは千里眼の山田だった。
無理もない…彼女のアリスでは手が出なかった領域だ。

「……時間がない…彼が無茶をする前に助け出します……」

セリーナ先生の返答はなかった。いや…これが返答だった。

(…誰も…適わないのか…五十嵐透…)
神野が臍をかんだ。

(行平校長の全幅の信頼を受ける…校長の最強の手ごま…)
セリーナ先生は水晶の上に手を置いたまま震えた。

(…口調が…『死の舞踏家』になっている…)
岬先生は久しぶりに見る姿に釘付けになった。

(だが…無事なのか…五十嵐…お前はこの前『時間操作』を使ったばかりで…体が…)
神野は彼女の体を心配した。

「ほななー。行ってくるわ。杏樹、呼んだら宜しう頼む。岬ちゃんちょっとこのムチ豆借りていくでー」

彼女が駆け抜けるようにいなくなった後も…室内はもんもんとしていた。


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