ほか

□メガネ
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社長室には、珍しく眼鏡を掛けて仕事をする彼がいた。
羽ペンが忙しなく動き、彼の瞳は書類に向けられている。

「眼鏡も似合いますね」

随分と夢中になっていて、わたしが入ってきたことにも一向に気づかないので
此方から声を掛けてみる。
彼はゆっくりと顔をあげ、苦笑いしながら後ろ手で頭を掻いた。

「ンマーすまねぇ、つい夢中になっちまって。」
「カリファさんが今手が離せないそうなので、代わりにコーヒーをお持ちしました。少し休憩した方が良いですよ。」
「悪いな」

淹れたてのコーヒーを飲むその仕草をぼぉっとしながら見ていた。

「どうかしたか?」
「え、あ…アイスバーグさんが眼鏡を掛けてるの珍しいな。って」
「ンマーそうだな。滅多に掛けねぇしな。でも」

来い来いと手招きをして、わたしは彼の目の前に立たされる。
なんですか、と聞こうとしてもわたしの口からはその言葉が発せられなかった。
アイスバーグさんの唇がわたしの唇を塞いでたから。

「キスするときは邪魔なんだ。眼鏡ってやつは」

片手に眼鏡を持ち、口角を上げて、悪戯が成功したときのような少年っぽい笑顔を見せた彼を見たのは、

淹れたてのコーヒーとわたしだけだった













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