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□空から雨、涙かと思った。
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一昨日くらいに、ヴィンセントが死んだという話を聞いた。
ロスの地下鉄で、誰が殺したかなんて聞いても無意味だ。
……聞いてしまったけれど。

顔も知らない人間を復讐という自己満足で殺すなんてしない。それに……



殺してどうなるって言うの



約束は1つもしてなかった。
約束をする必要もなかった。



ただ、この廃れた町の廃れたモーテルで、わたしがただ1人待ってるってだけで

何もする気が起きず、薄暗くした部屋のベッドの上でぼんやりとしながら呼吸をしていた
乱れたシーツに鼻を押し付けると、4日前に出て行ったヴィンセントの香水が微かにに香った


失敗なんかしなかった、怪我をすることはあったけど。
どんな時だって必ず帰ってきたし。
遅くなっても必ず朝には隣で眠ってた。
どちらかが仕事の時は、必ずどちらかが見送った。
仕事に行く前には、いつも額と唇にキスを一回ずつ


あれがまさかさよならのキスになるなんて、思ってもみなかった。

「明後日には帰る。」
その言葉が幻聴として頭のなかに響きだす
そして、いつもの様に額と唇にキスをくれた
「行ってくる、」

行かないで。
おねがい、行かないで……


ベッドから上半身だけを起こし、外の風景を見た
外から見えるのは駐車場と数台の車。ヴィンセントの姿があるわけじゃない

窓にぽつんの雨が当たったかと思うと、一気に強い雨が降り注ぐ
わたしは彼の声を思い出しながら、枕に顔を埋めた
頬が濡れたが、気のせいだと思う。


この雨が止んでも、きっと悲しみは溢れるだろう









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